【黒沢潤のスポーツ茶論】すがすがしき金農ナインに東北人の「意地」を見た - 産経ニュース

【黒沢潤のスポーツ茶論】すがすがしき金農ナインに東北人の「意地」を見た

 金足農がローソンと共同開発した「金農パンケーキ」=8月23日、秋田市
準々決勝の近江戦で逆転サヨナラ2ランスクイズを決めて喜ぶ金足農ナイン=8月18日、甲子園球場(恵守乾撮影)
 「『金農パンケーキ』を東京で売る予定はありますか?」。甲子園を沸かせた金足農(秋田)が決勝で敗れた後、東京・荻窪のローソンで年配の男性店員に聞くと、「残念ながらその計画はありません」との言葉が返ってきた。
 この商品は、金足農とローソンが「あきたこまち」の米粉を混ぜるなどして共同開発した地元の人気限定商品だ。店員はこちらの意に沿えないことを丁重にわびつつも、どこかうれしそうな表情を見せた。隠れた「金農ファン」であることを瞬時に察知した。
 金足農は全国が酷暑にさらされたこの夏、並み居る私立強豪校を激闘の末に倒すなど、“平成の一揆”と呼ぶにふさわしい奮闘を見せた。ダルビッシュ有(宮城・東北高出身)や、菊池雄星(岩手・花巻東高出身)でさえも成し遂げられなかった優勝旗の“白河の関越え”が彼らの誓いでもあった。
 東北地方の冬は長く、実に厳しい。寒風吹きすさぶ中、ときに負担のかかる長靴を履いて雪上でランニングに取り組むなど、雪国の逆境を力に変える東北人の「意地」を甲子園の地でまざまざと見た気がした。
                □   □
 今から四十数年前。東北地方で米作を営む祖父の自宅を訪れ、夕食を共にした。古武士のように背筋を凜(りん)と伸ばし、ご飯を静かに口に運ぶ祖父は、夕食を済ませた筆者の椀(わん)に米粒が1つ残っていたことを叱責した。
 「この一粒を集めるために、農家の人々がどれほどの苦労をし、汗を流したのか、お前には分からないのか」
 米粒たった一つの重み-。人生50年が過ぎた今、食事のたびに思い出されてならない光景の一つである。
 肌をも突き刺す夏の日差し、うなりを上げて北上する夏の巨大台風など、自然の猛威に農家はなすすべもないのが実情だ。「日照りのときは涙を流し、寒さの夏はオロオロ歩き…」。作家で農学者の宮沢賢治が吐露したように、厳しい自然によって農作物を全滅させられる農家の人々の心の“痛み”は計り知れない。丹精込めて作った生命が、短期間で死へと追いやられることの諦念をDNAに深く刻み込んでいるとはいえ、である。
                □   □
 それだけに、甲子園で窮地に立たされても心折れず、苦難を一つずつ乗り越えていった金農ナインのひたむきな姿は、日本全国の農業関係者を勇気付けただけでなく、一般の人々の心をも強く揺さぶった。
 JA全農あきた企画管理課の幹部は「金足農から感動を頂いた。全国の農家にも力を与えてくれた」と電話越しに熱っぽく語った。
 秋田市によると、金足農の躍進を機に、全国からの「ふるさと納税」が増えているという。同市の栗林律人報道官は「『頑張ってください』とのメッセージ付きの寄付が来るのです」と教えてくれた。秋田県庁にも金農ナインの奮闘をたたえる声が相次いで寄せられ、「(過去に)記憶がない」(県庁総務課主査)と驚きを隠せないでいる。
 ♪「可美(うま)しき郷(さと) 我(わ)が金足 霜しろく 土こそ凍れ 見よ草の芽に 日のめぐみ 農はこれ たぐひなき愛… われら われら拓(ひら)かむ」
 豚の飼育やジャム作り、野菜栽培などをこよなく愛す青年たち。彼らのひと夏の激闘は、一戦一戦勝ち上がるたびに“エビぞり”になって校歌を全力で歌う感動的な光景とともに、日本人の心に深く、刻まれた。