【正論】次代への「萌芽」となる総裁選に 東洋学園大学教授・櫻田淳 - 産経ニュース

【正論】次代への「萌芽」となる総裁選に 東洋学園大学教授・櫻田淳

東洋学園大学教授・櫻田淳氏
 9月20日に投開票が行われる自民党総裁選挙は、安倍晋三首相(党総裁)と石破茂元幹事長との一騎打ちの構図が固まった。
 ≪国際政治の観点でとらえよ≫
 これまで幾度も指摘してきたように、筆者が下す内閣評価の基準は、第1が「外交・安全保障政策を切り回せるか」であり、第2が「経済を回せるか」である。
 たとえば、シンガポールでの米朝首脳会談以降、朝鮮半島情勢は小康を保っているとはいえ、それが何時、再び急変するかは予断を許さない。
 米中関係の緊張も、貿易や経済に絡むものだけではなく、人権や政治体制を含む価値意識に絡むものに広がりを示しつつある。
 こうした国際政治情勢を前にして、ドナルド・J・トランプ米国大統領という「異形の政治家」と気脈を通じることのできる各国政治指導者の限られた一人が安倍首相であるというのは、日本にとっては実に宜(よろ)しきことである。
 トランプ大統領が安倍首相の言葉に耳を貸すという関係が成り立っている限りは、少なくともトランプ大統領が1期目の任期を終えるまでは、彼の「お守り役」や「指南役」を安倍首相に務めてもらうのが、日本だけでなく世界にとって幸いであるという評価になるかもしれない。
 自民党総裁選挙は、それを国内政局との絡みではなく、国際政治の相の下に見る姿勢が大事なのである。
 ≪生活の満足度は過去最高を更新≫
 また、過般、内閣府が行った「国民生活に関する世論調査」の結果によれば、「現在の生活に満足していると答えた」層は、74・7%に達し、1963年以降、2年連続で過去最高を更新した。
 日本経済が「旭日の勢い」を持った60年代以降、「バブルの狂瀾(きょうらん)」の最中に比べても、現下、世の人々の大勢は、日々の生活に「満足」を覚えているのである。
 この世論調査を報じたNHK記事(8月24日配信)には、「満足していると答えた人を年代別に見てみますと、18歳から29歳が83・2%で最も多く、30歳から39歳が78・9%、70歳以上が75%などという順になりました」とある。
 こうした時勢の下、野党諸党が何を語ったところで、自民、公明両党の政権運営を揺るがすことは難しい。
 特に30代以下の世代にとっては、「そもそも、何かを変える意味があるか」という反応であろう。その「何か」に安倍晋三という宰相が含まれるのは、世が経済復調局面にある限り、当然である。
 振り返れば、12年前、小泉純一郎内閣が退陣して以降、6年前の第2次安倍晋三内閣発足に至るまで、日本が直面したのは、「泣き面に蜂」とも表現すべき状況であった。
 政治の面では、自民、公明両党主導の短命内閣が3代続いた後で、結局は政権担当能力の貧困を世に印象付けた民主党主導内閣が3代も続いた。
 経済の面では、サブプライム・ショックやリーマン・ショックに端を発した世界金融危機の影響が日本にも波及し、それは小泉内閣以来の「デフレ脱却」の動きを頓挫させた。2010年には、日本の国内総生産(GDP)は中国に抜かれ、日本は「世界第2の経済大国」の座から転落した。
 そして、社会の面では、「千年に一度の震災」と評された東日本大震災と「史上最悪」級の福島第1原発事故は、それへの国民各層の冷静な対応が世界からたたえられたとはいえ、それ自体が戦後最大の「国難」であったことには変わりがない。
 ≪政治人材を「使い切る」姿勢を≫
 こうした2010年を挟んだ「泣き面に蜂」状態の5年余りの歳月は、小泉純一郎という宰相を「使い切らなかった」ことにこそ、その遠因の一つがある。
 既に「歴史のイフ」に属する話であるけれども、仮に小泉氏が「2期6年」の党規に縛られることなく09年近くまで政権を担当していたならば、この「泣き面に蜂」の風景は、相当に変わったものになっていたであろう。
 小泉内閣下、日米関係が「未曽有の蜜月」と評され、「構造改革」路線が広範な支持を集めた事実を振り返れば、そのような想像は決して難しくない。
 凡(およ)そ、外交・安全保障と経済の両面で国民に「安心」を提供できる政治人材は、決して多くないのであれば、その政治人材を「使い捨てる」のではなく「使い切る」姿勢にこそ、日本の人々における政治上の「成熟」の度合いが表れることになる。
 故に、此度(このたび)の総裁選挙に際して国民各層に披露されるべきは、安倍晋三という宰相を「使い切る」構えであり、その後に訪れるべき次代への「萌芽(ほうが)」であろう。
 その意味では、石破茂氏が敢然と出馬を表明し、選挙を「争論」の舞台として無風にしなかったのは、誠に結構であった。次代への「萌芽」は、そうした「争論」を通じてこそ、世に認知されるものであるからである。(さくらだ じゅん)