【正論】米中覇権争い乗り切る日本の道 東京国際大学教授・村井友秀 - 産経ニュース

【正論】米中覇権争い乗り切る日本の道 東京国際大学教授・村井友秀

村井友秀・東京国際大学教授
 一般的に民主主義国では、外交政策に関して与党と野党の間に大きな政策の違いはない。「右であれ左であれ我が祖国」(G・オーウェル)だからである。また、国際関係は国内と異なり、法の執行者が明確に存在しない一種の無法状態である。現実の国際関係は「永遠の友も永遠の敵も存在せず、永遠の国益が存在するだけだ」(H・パーマストン)ということになる。
 無法者を改心させる懲罰的抑止
 無法状態の国際関係の中で、攻撃的な国家を抑止する方法は、(1)攻撃しなければ報償を与える「報償的抑止」(2)攻撃をはね返すことによって攻撃者に利益を与えない「拒否的抑止」(3)攻撃されれば反撃し、攻撃者に損害を与える「懲罰的抑止」-がある。報償的抑止は、攻撃者が報償目当てに相手を威嚇することを助長しかねない。拒否的抑止は、攻撃者が損害を被らずダメ元で攻撃してくる可能性を排除できない。歴史を見ると、懲罰的抑止が攻撃者を効果的に抑止してきた。
 北朝鮮の場合も、これまで周辺諸国が取ってきた政策は基本的に報償的抑止か拒否的抑止であり、懲罰的抑止は実行されなかった。今回初めて「斬首作戦」を含む懲罰的抑止が機能したのである。
 民主主義国家では、政府が強硬に要求を突き付けたにもかかわらず、後から要求を取り下げることによって、政府が有権者の信用を失うコスト(観衆費用)がある。故に民主主義国の指導者は過激発言で相手国を威嚇することを躊躇(ちゅうちょ)する。しかし、トランプ大統領は観衆費用を無視して過激な発言を繰り返している。
 多数の死傷者が発生する可能性がある懲罰的抑止を、トランプ大統領なら平気で実行するかもしれないという金正恩委員長の不安が米朝会談を実現させた。他方、派手な演出好きのトランプ大統領には米朝会談は魅力的な選挙キャンペーンに見えたのだろう。
 朝鮮半島支配を強める中国
 中国にとって北朝鮮は単なる隣国ではない。北朝鮮は2千年前の漢の時代には中国の一部(漢四郡)であり、その後も朝貢国として中国に従属した。中朝は「唇亡ぶれば歯寒し」密接不離の関係である。北朝鮮が国連制裁を受けたときには、中国が制裁に加わる振りをして制裁を骨抜きにし北朝鮮を守った。
 ただし、中国は北朝鮮を守る代償として北朝鮮の鉱山や港などの重要なインフラを50年以上長期間租借する。軍事力よりも経済力で支配する「新植民地主義」によって、北朝鮮は中国の配下に置かれた。故に北朝鮮の役人が「日本は百年の敵、中国は千年の敵」と発言する事態になっている(RFA2018年1月4日)。
 韓国における親北政権の誕生は、平和的に南部朝鮮へ進出する絶好の機会を中国に与えた。この機会を生かすために中国は米軍の介入を招きかねない北朝鮮の挑発を抑えた。
 将来の東アジアの覇者はだれか
 将来の東アジアは、(1)米国が覇者、または(2)中国が覇者-という2つの形が考えられる。
 (1)米国が覇者であれば現在の状況と変わらない。米国が太平洋を支配するためには、米国から1万キロ離れた太平洋の西側を守る日本の役割が欠かせない。日本は米国に対して物言う強力なカードを持っている。日本の地理的位置と高い技術的能力は「余人を以って替え難い」。
 (2)中国が覇者になれば状況は劇的に変化する。現在の日本が中国に対して持っている技術的優位は時間差の問題であり、一定の時間がたてば中国は必ず追いつくと中国人は信じている。したがって、日本が中国に対して物言う強力なカードはない。
 また、中国共産党の国家戦略の基本は「1つの山に2匹の虎はいない」、すなわち東アジアのもう1匹の虎である日本に勝つことである。中国は日本の国連常任理事国入りに強く反対している。
 また、日本の貿易の99%は海上輸送である。インド洋や太平洋を通るシーレーンは日本の生命線である。もし、日本が米国の友人ならば、米国が日本のシーレーンを守るだろう。中国軍に米軍を撃破してインド洋や太平洋の日本のシーレーンを攻撃する能力はない。
 しかし、日本が中国の友人になり米国の敵になれば、中国軍にインド洋や太平洋の日本のシーレーンを米軍の攻撃から守る能力はない。したがって、日本が生命線のシーレーンを守ろうとすれば、米国の友人になる以外に選択肢はない。以上の条件を考えれば日本が進むべき道は、米国が覇者たる東アジアを守る道である。
 日本の安全保障の要点は、日米同盟を強化し、同盟の中で日本の発言力を大きくすることである。中国は米国の「競争国」になった。共通の敵が存在すれば同盟は強くなる。同時に日本も「巻き込まれ」の議論を超えて北大西洋条約機構(NATO)諸国と同様に、正義のために犠牲を払って積極的に同盟に貢献していると米国に認識させることが肝要である。(東京国際大学教授・村井友秀 むらいともひで)