【風を読む】ギブソンのギターに魅せられて分かったこと 論説副委員長・別府育郎 - 産経ニュース

【風を読む】ギブソンのギターに魅せられて分かったこと 論説副委員長・別府育郎

「ハードロック・カジノ」がオープンする予定地の場所から数ブロック先のメーンストリートでつり下げられる「ギブソン・レスポール」のレプリカ=6月、米ニュージャージー州アトランティックシティー(AP)
 東京・四谷の新宿通り沿いにかつて、不思議なスポーツ用品店があった。通りに面した1階には野球のグラブやバットが飾られ、地下には米国製のギターが並んでいた。スポーツ用品は父親の代から引き継いだもので、地下のギターは主人の趣味なのだといった。
 少年のころに欲しかったものといえば、イソノのグラブ、玉澤のスパイク、そしてギブソンのギターだった。だから、夢のような店である。
 物に吸い寄せられるという不思議な感覚があり、ここでギブソンのギターを衝動買いした。小さめのボディーにサンバーストのよく枯れたアコースティックギター。ホールの中をのぞくと「LG1」と焼き印があり、1950年代から60年代にかけて作られた廉価版らしい。
 とはいえ、安い買い物ではなく、近くのコンビニで現金を下ろして支払った。十数年前のことだ。大して弾けるわけではないが、部屋にギブソンがある幸福感に、しばし浸った。
 ギターは上手に付き合えば恋人にも相棒にもなり得る。
 B・B・キングは愛器に「ルシール」と女性名を付けて「最愛の女性」と呼んだ。植木等の告別式では祭壇の中央に愛用品が飾られた。いずれもギブソンのギターだった。
 多くのブルースマンが愛したアコースティックや、レスポール、SGなどエレキの名器。世界のギター小僧の憧れだったギブソン・ブランズが5月、米連邦破産法の適用を申請した。事実上の経営破綻である。
 若者のギター離れによる市場の縮小や、これに伴い、アンプやスピーカーなど音響関連の総合メーカーを目指した企業買収などによる負債が膨らんだためとされる。
 経営の立て直しに向けて同社が選んだ道は、楽器製作への原点回帰だった。アコースティックであれエレキであれ、魅力あるギター作りに専念する。それがギブソンの道なのだと。
 わが身に置き換えれば、紙であれ電子版であれ、書くべきことを、まじめに書き続ける。そういうことなのだろうな。