8月28日

産経抄

 26日、91歳で亡くなった米国を代表する喜劇作家、ニール・サイモン氏に対して、脚本家の三谷幸喜(こうき)さんは長年深い敬愛を抱いてきた。学生時代に、サイモン氏の代表作の一つ『おかしな二人』を観(み)て、劇作家を志したエピソードは演劇ファンに広く知られている。

 ▼主宰した劇団の名前もサイモン作品の『サンシャイン・ボーイズ』から採ったほどだ。執筆に行き詰まると、サイモン氏の戯曲集を読み返し、その姿を思い浮かべる、とエッセーに書いていた。

 ▼演出家・翻訳家の酒井洋子さんは、ニューヨークに留学中の1965年、サイモン氏の『はだしで散歩』に出合った。「全員笑い転げていた」「芝居を観て転げ落ちる人を見たのは初めてだった」。サイモン氏の自伝『書いては書き直し』の訳者あとがきで、熱く盛り上がる劇場内の様子を紹介していた。

 ▼創作の原点は何だったのだろう。サイモン氏の少年時代、両親は不仲で、家の中で笑い声はめったに聞かれなかった。だからこそ「劇場で私の台詞(せりふ)にわく笑い声は滋養だった。笑いを聞けば聞くほど、もっと聞きたくなった」という。

 ▼米国からは昨今、分断の大きさを示すニュースばかりが届く。観客それぞれの考え方はバラバラでも、笑いと感動で劇場内を一つにまとめ上げた作品の力が、今ほど求められる時代はない。

 ▼前日には、共和党の重鎮としてトランプ大統領にも物申したジョン・マケイン上院議員(81)の訃報が届いたばかりである。ベトナム戦争の英雄であり、政界に転じてからは一貫して日米同盟を支持し、北朝鮮による日本人拉致問題にも強い関心を示してきた。活躍の分野は違っても、両氏ともに、米国を「あこがれの国」「偉大な国」たらしめてきた人物である。