憲法改正原案の国会提出を急げ 国士舘大学特任教授・日本大学名誉教授・百地章

正論
国士舘大学特任教授、日本大学名誉教授・百地章氏

 明治維新ゆかりの地、郷里山口で8月12日、安倍晋三首相が「自民党としての憲法改正案を秋の臨時国会に提出できるようとりまとめを加速すべきだ」と発言した。

 ≪審査会動かなければ議員立法で≫

 国会法上、憲法改正の原案づくりは、まず一人一人の国会議員に委ねられており、衆議院で100人以上、参議院で50人以上の賛成者がいればいつでも国会に提出できる(第68条の2)。ところが、これを知らない国会議員が少なくない。安倍首相の提案は、この議員立法に着目したものだ。衆参両院で、改憲勢力が3分の2以上を占めている今こそ、最大のチャンスであり、憲法審査会が動かない以上、これは当然だろう。

 平成12年に設置された「憲法調査会」の目的は、憲法改正の是非についての「調査」にあった。しかし「憲法審査会」は単なる「調査」機関ではなく、議員立法に基づく改正原案を「審査」し、自ら「原案」を作成することにある(同法102条の6、7)。

 ところが審査会は「調査」と議論に明け暮れ、活動開始以来7年もの歳月を費やしながら、いまだに原案一つ作成できないでいる。多額の国費を使いながら、見るべき成果はほとんどなかったといっても過言ではない。

 国民は、議員立法のことさえ知らない国会議員だけでなく、仕事をしない審査会に対しても、もっと厳しい目を向けるべきだろう。そして、憲法改正原案の国会提出を急がせる必要がある。

 ≪なぜ国民投票の機会を奪うのか≫

 審査会が動かなかった責任は、第一に圧倒的多数の議席を占めてきた自民党にある。しかし、立憲民主党や共産党にはそれ以上の責任があるといわなければならない。

 共産党は発足当初から憲法審査会の活動そのものを阻止しようとして、執拗(しつよう)に反対してきた。先の通常国会の閉会に当たり、志位和夫委員長は「憲法審査会は入り口に入ることもできなかった。安倍首相の改憲の動きをこの国会ではともかく止めた」と成果を誇った(朝日新聞、7月22日)という。

 実は、幹事会の「申し合わせ」により、審査会の運営に関し協議する幹事会には共産党などの委員もオブザーバーとして参加させ、幹事と同等の発言権を認めている。これでは審査会がまともに動くはずがなかろう。

 他方、「政局」を持ち出してたびたび審議をストップさせてきたのが、立憲民主党であった。昨年2月からは、森友・加計学園問題を持ち出して、執拗に「安倍たたき」をしてきた。その狙いは安倍首相の目指す憲法改正潰しにある。しかし、1年半も大騒ぎをしながら、当然のこととはいえ、違法行為や不正行為など、一つも見つけ出すことはできなかった。

 にもかかわらず、枝野幸男立憲民主党代表は「衆院全体が不正常な状態なのに憲法審査会だけ正常に動くということはあり得ない」と述べ、対決路線を強調してきた(朝日新聞、6月28日)。自ら作り出した混乱を理由に、憲法改正どころではないと嘯(うそぶ)いているわけである。

 これは、主権者国民を愚弄するものだ。なぜ、国民が憲法改正のための国民投票に参加する機会を奪い続けようとするのか。

 「政局を離れて」というのは、憲法調査会以来の「慣行」であると同時に、審査会規程の意図するところだ。両院の憲法審査会の規程には「憲法審査会は、会期中であると閉会中であるとを問わず、いつでも開会することができる」(第8条)とあり、たとえ国政上の混乱があっても「政局を離れて」開会し審議するのが、憲法審査会に与えられた使命である。

 ≪「多数決」で審議の促進を≫

 それ故、両党の理不尽な抵抗を封じるためには「与野党の合意」といった「慣行」を見直すしかない。これ以上の我慢は無用だ。

 両院の審査会規程には「憲法審査会の議事は、出席委員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、会長の決するところによる」(第11条)と明記されている。

 であれば、十分な審議と熟慮を経た後は、規程に基づき、粛々と「多数決」で決していく他なかろう。そして、改憲に向けた具体的成果を国民に示すべきだ。もちろん国民投票のことを考えれば、強引な運営や無理押しは禁物だし、国民に対して丁寧な説明や積極的な広報活動を行っていくことは不可欠である。

 しかしこれこそ、主権者国民を代表する国会議員としての責務であり、国会による「憲法改正の発議」を待ち望む多数国民の期待に応える方法であろう。関係各議員の勇断が待たれる。それとともに、国民の側からも審査会に対する強力な支援が必要とされよう。

 来年夏の選挙後も、参議院で改憲勢力が維持できるかどうかは分からない。とすれば残された時間は限られている。先に述べたように、憲法審査会は国会の閉会中でも自由に開催できる。これを生かして、秋の臨時国会といわず、この夏中にも速やかに審査会を開催すべきである。(ももち あきら)