米軍人との絆は日本独自の資産 元駐米大使・加藤良三

正論・戦後73年に思う
元駐米大使・加藤良三氏

 「匿名への情熱」を地で行く一群

 戦後73年を経た今、日米関係において日本はトランプ政権と向き合っている。トランプ氏は多分アメリカの憲政史上例のない異形の大統領である。また、今の世界でトランプ氏批判ほど容易なことはない。

 ただ、トランプ氏は現代のアメリカが生み出したものであってその逆ではない。トランプ氏はワシントン、リンカーン、マーティン・ルーサー・キングがそうであったという意味での「リーダー」ではない。ある種の国民感情の投影である。

 筆者が初めてまともにアメリカと関わったのは1965年で、その後駐米大使を辞める2008年まで、総じてアメリカでは偉い人たちは有能で威張っておらず、配下に「匿名への情熱」(passion for anonymity)を地で行く一群のプロフェッショナルがいるものだと思った。この言葉はF・ルーズベルトからハリー・トルーマンの時代に定着したが、我欲やスタンドプレーの類いを封印し、自分よりも大事な「何か」のために黙々と本分を尽くして仕事をする精神というべきものだろう。

 そしてこれが「大統領補佐官」や「国家安全保障局」の設置につながる。この精神の持ち主を重用するリーダー層には率先して納税、兵役の義務を果たし、損得抜きで国益に貢献することを責務だと考える「高貴な精神」(ノブレス・オブリージュ)があった。

 国民が圧倒的に信頼を寄せる

 たまたまこの6月末に発表されたギャラップ調査をみると、今、アメリカ国民が信頼する対象は1位が断然、軍人で74%、ほか行政府37%、メディア23%、議会11%-となっている。中小企業は67%、大企業は25%とある。この種の数字は継続してウオッチしないといけないが、何となく筆者の印象と符合する。

 第二次大戦後のアメリカは冷戦や多くの実戦を戦う一方、人種差別問題に正面から取り組み、公民権法を通し、マイノリティー優遇制度やポリティカル・コレクトネス(政治的適切性)などの社会規範の定着に取り組んだ。

 1960年にアイリッシュ・カトリックのJ・F・ケネディを、2008年には黒人系のバラク・オバマ氏を大統領に選出した。2016年には女性大統領がほとんど誕生しかけた。その間、人口は10年間に3千万人超のペースで増え続けた。

 アメリカの活力は他がまねのできるものではないが、「疲れ知らず」のアメリカにも近年、富の異常な偏在感をベースにして「この国をつくった者の正統な子孫が不公正に扱われている」「もう偽善には辟易(へきえき)した」という類いの「飽和感」が見て取れる。トランプ氏の支持率はオバマ氏の政策をちゃぶ台返しするごとに上昇する。

 国際面では、彼は「全方位喧嘩(けんか)外交」を厭(いと)わず北大西洋条約機構(NATO)同盟国にかみつくかと思えば、ロシアとの接近を図るなど、民主主義の側が70年に及ぶ冷戦を戦い抜いたのは何のためだったのかと訝(いぶか)らせるようなアクロバットも演じている。

 これも結局、アメリカ国民の共感(随分助けてやったはずの相手が、恩返しをするでもなく大きな顔をしているとの感覚)があるが故に起きていることである。それは即物的な「庶民感覚」であって理性的な「エリート感覚」ではなく、それがもたらす結果についての責任はアメリカ自身が負うしかないが、トランプ氏の作法や戦略性はともかく、その個々の言い分に現実的ポイントがあることは直視されるべきだろう。NATOに向けた矛先は早晩、日本にも向くであろう。

 好意と知見をもった「応援団」

 「大統領トランプ」への対応はポスト・トランプも見据えて小手先ではなく、これまで日本が培った洞察力を駆使して策定されるべきものである。前述の世論調査で断然、信頼度が高く出たのが軍人であることは重要である。それは極端な負けず嫌いに見えるトランプ氏にとって、決して敵に回してはならない存在が軍であることを意味しよう。軍人の血を無駄に流さない配慮とともに、米軍を世界最強の軍として維持し、軍人に誇りを与え続けることが内政上の要諦でもあるに違いない。

 堅固な日米同盟の中にあって、アメリカ側で日本に対する最大の好意と知見を有するのは在日米軍勤務経験者やその家族(あわせて400万人以上とされる)、それに彼らを率いた一群のシビリアンの幹部である。この「応援団」は中国、インドを含む域内国にはない日本独自の資産であり、その重さは通り一遍のものではない。

 トランプ氏の出方を見極め、それを受け止め、うまくやり返す、理性的で強い日本をつくるための材料はいろいろとあるはずだ。日本は、それらを総合的政策に練り上げる好機を得たと受け止めるべきだと筆者は考える。(元駐米大使・加藤良三 かとう りょうぞう)