8月15日

産経抄

 73回目の終戦の日を迎えた。今年も戦争体験の記録集『孫たちへの証言』(新風書房)が送られてきた。第31集となる。戦場体験を寄せる人は卒寿を超える。70代以下の人には、「記憶違い」が目立つようになった。

 ▼平成の終幕を機に編集を若手にバトンタッチする福山琢磨さん(84)は、戦争を語り継ぐことの難しさを痛感している。その意味で、松江護国神社(松江市)の禰宜(ねぎ)、工藤智恵(ちえ)さん(52)と旧陸軍航空士官学校56期生との出会いは、幸運だった。

 ▼きっかけは、一冊の日記である。昭和20年3月、南京上空戦で戦死した陸軍中尉、進藤俊之さんが、士官学校時代の出来事や日々の心情をつづったものだ。進藤さんの妹から日記を託された工藤さんは、祖国を守るために懸命に自己を鍛える姿に感銘を受ける。

 ▼昭和18年に卒業した士官618人のうち、半数以上の357人が戦死、初期に編成された特攻隊の隊長の大半を占めていた。工藤さんは、56期生の戦友会「紫鵬会(しほうかい)」が活動を続けていることを知る。代表を務めるのは、航空技術将校として、シンガポールで終戦を迎えた梅田春雄さんである。

 ▼工藤さんは梅田さんの助言を得ながら、遺書や手紙、遺族の手記を基に、取材を進めていった。その成果が著作の『留魂(りゅうこん)』となる。第1巻はフィリピン・レイテ戦で戦死した特別攻撃隊の隊長を取り上げた。今年3月に出た第2巻は、本土防空戦や沖縄戦で亡くなった7人の士官の心情に迫り、生き残った同期生の証言をまとめている。

 ▼その刊行を見届け満足したかのように、梅田さんは今月13日、97歳で亡くなった。「仲間や遺族にとって本当にありがたい、と言ってくださった」。工藤さんに昨日電話を入れると、涙声だった。