田んぼダム 豪雨被害を減らす知恵だ

主張

 コストを要さず、ただちにできる水害対策として、「田んぼダム」の導入を提案したい。

 雨の降り方が変化している。これまで経験したことのない激しい降雨が頻発している。豪雨の列が地域に居座り続け、数日間で1年分に相当する雨量に達してしまう。

 大規模洪水と各地の山崩れで200人を超える犠牲者を出し、住宅や農作物にも甚大な被害をもたらした西日本豪雨からおよそ1カ月がたった。

 この激甚な災害は積乱雲の列による線状降水帯がもたらしたものだった。昨年7月には、やはり多数の人命を奪った九州北部豪雨が発生している。大雨による被害の軽減策への着手が急務である。

 田んぼダムは、河川の上流域の水田群に一時的に雨水をためることで下流の水位上昇を抑える治水システムだ。

 新潟県村上市を発祥の地とする田んぼダムは、信濃川を擁する同県内で導入が進んでいる。平成23年7月の新潟・福島豪雨では、浸水面積や氾濫水量の抑制に一定の効果を発揮した。

 新潟大学の研究者も普及に力を入れており、北日本から北海道方面では導入の輪が広がりつつあるところだ。

 田んぼダムの特徴は、農家の協力が得られれば、速やかに実施できる点にある。しかも費用が安い。水田の排水口に、小さな穴の開いた調整板を1枚、セットするだけで済む。

 個々の水田にたまる水は浅いが、水田群の面積は広大なので、総貯水量は、万トン単位の規模になる。たまった雨水は調整板の穴からゆっくり流れ出るので、稲が水に漬かり続けることはない。

 「早く・安く」「浅く・広く」が真骨頂だ。美しい水田が広がる瑞穂国ならではの洪水対策である。大型ダムと異なり、環境への影響も避けられる。

 だが、残念なことに西日本での知名度は高くない。洪水を完全に防ぐことは難しくても、被害の軽減には有効だ。全国規模での展開は検討に値しよう。

 気候変動に伴う災害から人命や財産を守るには、被害を抑えるための治水事業など、国による「適応策」の充実が急がれる。

 田んぼダムは格好の適応策だ。普及のためには水田に関わる農林水産省と河川を担当する国土交通省の連携が不可欠である。