8月1日

産経抄

 海上自衛隊の新型イージス艦が、「まや」と命名された。神戸市灘区の六甲山地中央に位置する摩耶(まや)山に由来する、と聞いて、堀江ひとみさんを思い出した。たった一人で暴力団に立ち向かった女性として、記憶している人も少なくないだろう。

 ▼話は昭和60年に尼崎市で起きた、暴力団の抗争事件にさかのぼる。たまたま現場に居合わせた当時19歳の女性が、流れ弾に当たって死亡した。摩耶山の寺と縁のあった堀江さんが、「まや」と名付けた一人娘である。実行犯の暴力団組員が逮捕されても、納得できなかった。

 ▼実行犯に命令した組長が責任を取るべきではないか。組長に損害賠償を求める訴訟を起こした。前代未聞の裁判は、堀江さん側の実質勝訴で終わる。堀江さんは勝ち取った和解金で「まや基金」を創設、暴力団犯罪の被害者救済のために全国を飛び回った。「もっと暴力団を追いつめる規制が欲しい」と国に訴え続けた。

 ▼防衛省は、弾道ミサイルを迎撃できるイージス艦をまやを含めた8隻とする態勢をめざす。さらに秋田、山口両県には、地上型の迎撃システム「イージス・アショア」の配備を計画している。海と陸、両方のシステムが機能してこそ、高い防空能力を維持できる。

 ▼もっとも、朝鮮半島の情勢変化を理由に、「地上イージス」配備の見直しを求める声が出てきた。北朝鮮の脅威が薄れつつあるとは、あまりにも楽観的な見方だろう。軍事力の強大化を急ぐ中国の海洋進出に備えるためにも、むしろ配備の前倒しが望ましい。

 ▼平成24年に77歳で亡くなった堀江さんの勇気ある行動は、あらゆる法令を適用して暴力団を封じ込める機運を作り出した。日本の海と空を守るために、できうる限りの手段を講じたい。