【風を読む】「坂本弁護士一家の行方は超能力で捜すのは可能ですが…」とうそぶく麻原彰晃を前に私は… 「高をくくってはいけない」肝に銘じたあの日の取材 論説副委員長・別府育郎 - 産経ニュース

【風を読む】「坂本弁護士一家の行方は超能力で捜すのは可能ですが…」とうそぶく麻原彰晃を前に私は… 「高をくくってはいけない」肝に銘じたあの日の取材 論説副委員長・別府育郎

麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚
静岡県富士宮市のオウム真理教総本部から警視庁が押収したミサイルなどの武器類=平成7年7月
 記憶にあるのは、強烈な臭いである。富士のふもとの師走は相当に寒かったはずだが、その覚えはない。平成元年12月、静岡県富士宮市にあったオウム真理教総本部を訪ねた。
 同年11月に横浜で坂本堤弁護士一家3人が失踪しており、オウムの関与が疑われていた。尊師の麻原彰晃が単独取材に応じるというので、向かった。
 道場では約200人の信者が修行中だった。それぞれのポーズで、大声で祈る者、体をガタガタと震わせ続ける者。瞑想(めいそう)にふける者。敷地内に水洗トイレはなく、彼らがしたたらせる汗とともに、鼻を刺すような強烈な臭気が漂っていた。
 麻原は本部棟裏の3階建て住居で待っていた。インタビューの間は彼の座が一段高く、こちらは低い。ふかふかの座布団に座る麻原の横には、高弟の早川紀代秀が控えていた。坂本一家殺害の、首謀者と実行犯が目の前にいたことになる。
 一家の行方を聞いた。麻原は「超能力で捜せといわれれば可能ですが、やるべきではないでしょう。居場所を知っているのは唯一犯人であると、でっち上げられますから」と答えた。
 安否についても聞くと、「それについても申し上げるべきではないでしょう」と笑った。早川も笑った。
 なんと緩く、甘い取材であったことか。一家はすでに惨殺され、別々の山中に埋められていた。教祖の指示も謀議も、同じ総本部で行われていた。
 不明を恥じながら言い訳すれば、目の前の彼らは稚拙で杜撰(ずさん)な集団としかみえなかった。それほど大それたことはできまいと、高をくくったのだ。
 坂本一家殺害の事件が早期に解決されていれば、首謀者や実行犯が重複する松本サリンや地下鉄サリンなど後の事件は起きていなかったはずである。
 同じ愚を冒すことは許されない。死刑が執行された麻原の遺骨をめぐり、遺族の争いが伝えられる。背景にはオウムの後継団体の存在がある。教祖への帰依が新たな事件を生まないか。高をくくってはならない。=呼称略