【主張】タイ洞窟帰還 英知結集の救出劇に学べ - 産経ニュース

【主張】タイ洞窟帰還 英知結集の救出劇に学べ

 タイ北部チェンライ県の洞窟に閉じ込められた地元サッカーチームの少年12人と男性コーチが全員救出され、記者会見で元気な姿をみせた。無事帰還を素直に喜び、救援に参加した全ての関係者の尽力を讃(たた)えたい。
 「ミッション・インポッシブル」と地元の責任者も漏らした、過酷な状況下の危険な任務だった。
 奇跡を実現したのは、世界中から集まった最高の人材と技術が、タイ側の救援活動と強く結びついたためである。
 緊急事態でもメンツや規制が邪魔をして国際支援を断る国や自治体が往々にしてある。異常気象による自然災害が世界で発生する今こそ、今回の成功体験から学ぶべきことがあるはずだ。
 少年らが行方不明となった直後、同県が応援を求めたタイの海軍特殊部隊は洞窟潜水の経験が乏しいため、英国専門家らの協力を即座に求めることにしたという。ネットを通じて救援要請の情報は伝わり、欧州勢や米国、オーストラリア、中国の6カ国以上から特殊潜水士らが集まった。
 日本の国際協力機構(JICA)は排水ポンプ技術について助言し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)による衛星画像の地形図を提供した。目立たないが洞窟内への流入水の抑制に役立った。
 医療、通信、炊き出しに至るまで1万人超が参加した。サッカーワールドカップ(W杯)開催中でもあり、代表選手が激励の声を寄せた。未曽有の国際合同作戦を世界中の人々が固唾をのんで見守り、帰還を祈ったのである。
 タイ海軍特殊部隊の元隊員が空気ボンベ運搬中に意識を失い死亡する悲劇もあった。その犠牲は、現場で疲労や低体温と闘う隊員の体調管理に生かされたはずだ。
 8日に始まった救出は、水位をにらんで「これ以上待てない」とみた現場の冷静な判断による。少年らには鎮静剤を服用させ、体全体を繭のように包む特殊担架に乗せた。1人に対し潜水士2人が前後から挟み込み、約4キロ、少年らは「ほぼ寝たまま」の守られた状態で運び出された。
 「普段は自分の興味のために使うスキルを社会全体にお返しできた」と英潜水士が米メディアに語った謙虚な言葉が印象的だった。助けを待つ命は世界の紛争地や被災地、そして日本にもある。私たちに何ができるか、考えたい。