児童虐待対策 重層的な支援態勢を作れ

主張

 子供が理不尽に命を失う国を、文化的国家とはいえない。

 東京都目黒区で船戸結愛(ゆあ)ちゃんが両親から虐待を受けて死亡した事件を機に、政府が検討していた児童虐待防止の緊急対策がまとまった。

 児童福祉司を平成34年度までに約2千人増やすなど児童相談所(児相)の態勢を強化する。

 一歩前進である。態勢強化は喫緊の課題だった。政府が正面から取り組む姿勢を示したことは大きいが、まだ足りない。

 問題は連携である。転居前後の児相間で連携に齟齬(そご)があった結愛ちゃんの事件の反省から、緊急性が高い場合は対面などで引き継ぎを実施することを原則化する。

 48時間以内に安全確認ができない、虐待による外傷や性的虐待がある、一時保護からの家庭復帰といったケースでは、児相と警察が情報共有することを全国ルールとし、連携を強化する。

 ただ、高知県や大分県ではすでに、全件を共有している。もう一歩踏み込むべきだった。

 児相は、親子関係が崩れた家庭に「介入」する一方で、親子に伴走して関係を修復する「支援」も担う。そのバランスは難しい。現場には、警察との情報共有が「支援」の足かせになるという抵抗感があるという。

 だが、子供を救えていない現実を直視し、全件共有を実施している県の経験に学ぶべきだ。

 さらに、支援の裾野を広げることが重要である。虐待防止は警察や児相など「公」の仕事として抱え込まれがちだ。緊急対策には市町村の態勢強化も盛り込まれており、そこでは「民」の力を積極的に借りるべきである。

 親元を離れた子供たちが暮らす「児童養護施設」には家族の問題に寄り添い、子供一人一人の自立を支援するノウハウがある。

 子供食堂などを運営するNPO法人と市町村が協力し、困難な状況の親子を支えるソフトアプローチもある。裾野が広がれば、児相の負担も軽減される。柔軟で重層的な地域ぐるみの支援態勢を構築すべきである。

 安倍晋三首相は関係閣僚会議で「幼い命が奪われる痛ましい出来事を繰り返してはならない。やれることは全てやるという強い決意で取り組んでほしい」と指示した。これを言葉だけに終わらせてはならない。