司法取引 社会が受容できる制度に

主張

 新たな捜査手法を広く社会に認識、浸透させるため、捜査機関は地道に実績を重ねるとともに、丁寧な説明を心がけてほしい。

 6月に導入された司法取引は、正式名称を「捜査・公判協力型協議・合意制度」という。

 共犯者の事件の捜査や公判に協力する見返りに容疑者や被告の刑事処分を軽減する捜査手法で、贈収賄や組織的詐欺、薬物事件、談合など組織ぐるみの犯罪の解明や捜査に有効であるとされた。

 その新制度が、外国公務員への贈賄疑惑で初適用された。

 タイの発電所建設事業をめぐり「三菱日立パワーシステムズ」(MHPS)の担当社員が、現地公務員らからの要求で数千万円を支払ったというものだ。

 MHPSは内部告発を受けて社内調査を行い、外国公務員への贈賄を禁止した不正競争防止法違反に当たる恐れがあるとして東京地検特捜部に申告した。

 制度導入後に両者で協議し、司法取引の「合意内容書面」に署名したのだという。不正競争防止法には法人にも処罰規定があるが、MHPSは法人としての訴追を免れる見通しだ。

 同法の改正で外国公務員への贈賄禁止規定が設けられて20年がたつが、立件はわずか4件にとどまっている。検察側は会社の協力を得ることで、立件が困難だった海外の犯罪立証を進めやすくなる。司法取引の適用は慎重に判断されたものだろう。

 だが通念上の社会正義は、弱きを助け強きをくじくものである。巨悪を眠らせぬためにこそ、新制度は効力を発揮すると期待した。企業が訴追を免れて現場の社員だけが刑事責任を負えば、トカゲの尻尾切りとみられかねない。

 贈賄額は数千万円にのぼり、社員個人の犯罪とするには不自然であり、上司や本社幹部の関与にどこまで捜査が切り込めるかが今後の焦点となる。司法取引が「遡上(そじょう)する捜査」の障害となれば、新制度は社会の信頼を得られまい。捜査や公判を通じて、新制度の利点を明確にする必要がある。

 新たな捜査手法は、取り調べの可視化で供述が得られにくくなる懸念から導入された。本音をいえば、首謀者や黒幕の摘発につながる運用実績を重ねてほしい。それでこそ新制度は、真の意味で社会に受け入れられる。