【正論】民心煽るポピュリズムの危うさ 防衛大学校名誉教授・佐瀬昌盛 - 産経ニュース

【正論】民心煽るポピュリズムの危うさ 防衛大学校名誉教授・佐瀬昌盛

防衛大学校名誉教授・佐瀬昌盛
 ≪欧州で台頭する「右翼政党」≫
 マルクス、エンゲルスにならっていえば、「万国の右翼ポピュリストよ、団結せよ」とでもいうのだろうか。今年4月のハンガリー国会選挙で右翼ポピュリズム政党「フィデス・ハンガリー市民同盟」が第1党となり、得票率49・3%、議席総数199のうち133議席を得て人々を驚かせた。同党所属のオルバン首相は1998年から2002年までに加えて、10年5月から今日まで政権の座にある。
 それだけではない。第2党となったのは「ヨッビク」(より良いハンガリーのための運動)で、その得票率は19・06%であった。つまり、右翼ポピュリズム政党とこの極右政党の得票率を合算すると、7割に近い。
 ポーランドでも類似の現象が見られる。3年前の総選挙では「法と正義」(PiS)党が460議席中、235議席を獲得、第1党となっている。同党も右翼ポピュリズム政党だが、それでも米誌『フォーリン・アフェアーズ』(17年11月)が「ポーランドの『法と正義』はなぜかくも人気があるのか」と首をかしげたほど、支持率47%と国民的人気が高い。ちなみに6月の『産経新聞』世論調査では安倍晋三政権支持は44・6%である。
 このほか欧州ではスイス、オーストリア、イタリア、ラトビア、ノルウェー、ブルガリア、スロバキア、ギリシャなどで右翼ポピュリズム政党が政権を担当、または分担している。またフランス「国民連合」のマリーヌ・ルペン党首も、ドイツの「ドイツのための選択肢」(AfD)のモイテン、ガウラント両党首も右翼ポピュリストだ。
 ≪難民の大量流入が引き金に≫
 特に指摘すべきはAfDがドイツ社会に与えたショックだろう。昨年9月24日の総選挙で同党は12・6%を獲得、一挙に第3党の座についた。そのために第4次メルケル政権の発足は今年3月14日へと半年近くもずれ込んでしまった。連立与党の社会民主党(SPD)が得票率20・5%と戦後最悪の惨敗を喫したからである。
 メルケル首相のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)も、戦後混乱期を除けば戦後最低の得票率に甘んじた。二大政党が苦戦したのは、ズバリ言うと難民問題のゆえである。昨年、ドイツでは19万8千強の亡命申請があった。08年以降の10年間の亡命申請合計は201万強である。福岡市の人口より44万ほど多い。しかも亡命申請者数は難民数ではない。亡命申請しない難民もいるからだ。ドイツ人口の40人に1人程度が亡命申請者ということになる。
 英国王立国際問題研究所による世論調査も役に立つ。イスラム圏からの現状以上の移民にピリオドを打つべきかと問われると、「イエス」は先述のハンガリー(64%)、ポーランド(71%)、オーストリア(65%)など、右翼ポピュリズム政権諸国で圧倒的に高い。他方、ドイツは現状以上の移民流入を嫌う声は53%と相対的に低い。苦戦を強いられながら、メルケル首相がCDU・CSUとSPDによる大連立政権からのCSUの離脱をかろうじて阻んだ実績が評価されてきたからだろう。
 ≪根源に潜む暗いルサンチマン≫
 右翼ポピュリズムは欧州だけでの問題ではない。トランプ米大統領の右翼ポピュリストぶりに対する批判は米国でも強い。昨年8月21日の『ワシントン・ポスト』は「トランプ氏の右翼ポピュリスト・メッセージは結局のところ、むなしい」と書いた。16年9月21日の『ニューズウィーク』は「ドナルド・トランプはどこまでアドルフ・ヒトラーに似ているか?」と問い、「両人はあらゆる社会的、政治的問題に対する解毒剤としての個性を持ち合わせている」からだと結論している。
 さらに、米誌『コメンタリー』も同年春、「トランプと右翼ポピュリズム」と題したデーヴィット・ニーヴェルト論文で、こう主張している。「トランプ氏は真意を語る保守派ビジネスマンを気取っているが、…右翼ポピュリスト強硬派へと変身してしまった。その方が選挙に勝てるからである」
 トランプ大統領や欧州諸国に見られる右翼ポピュリズムは結局、メキシコや中東-特にシリア-さらには北アフリカから押し寄せる大量の難民に対して、人々が抱く暗いルサンチマン(恨み)から生み出されてくるのであろう。
 最後に日本はどうか。外務省の発表によると、1982年の難民認定制度導入以降、昨年までの申請数は6万674件で、うち難民と認定されたのはなんと708件だという。人口58万人のルクセンブルクさえ、2000年から16年の17年間にシリアやイラク、イランなどから725人の難民を受け入れているのに。
 ただ、日本が万単位の難民を引き受けたりすれば、民情を煽(あお)り、物情騒然となるのは目に見えている。そうなっては元も子もない。いかにすべきか。すべからく「万機公論に決すべし」で、衆知の結集が必要である。(させ まさもり)