米国の心理映し出すトランプ流 元駐米大使・加藤良三

正論
元駐米大使・加藤良三氏

 「一人横綱」には責任感の重圧に晒(さら)される面と専横になる面の双方があると聞く。冷戦終了後の「一人横綱」、世界唯一の超大国アメリカの場合はどうだろう。世界はアメリカ一極のピラミッド型と東西2横綱がそろった2軸型いずれの構造の下でより安定するのだろうか。また、これからはどうなるのだろうか。

 ≪世界の「仕切り役」は変わらない≫

 9・11同時テロからアフガニスタン、イラク戦争と続いたとき、ブッシュ43代大統領の「ユニラテラリズム」(単独行動主義)への批判が盛んだった。「ユニラテラリズム」は危険、「マルチラテラリズム」(多国間主義)によるべしとの論調だった。

 その頃、ある先輩から「ユニラテラリズム、マルチラテラリズムには前者が悪、後者が善ということはない。双方とも積極的、消極的という2つの類型があり、その取り合わせによって判断すべきだ」との指摘を受けた。すなわち(1)積極的多国間主義(2)積極的単独行動主義(3)消極的多国間主義(4)消極的単独行動主義-であるが、教科書的には(1)がいいのだろう。

 (3)は例えば緊急のとき、国連安全保障理事会が機能しないというケースでしばしば当事者は泣き寝入りを強いられる。かつてアフリカのリーダーから、「自国で紛争の煙が上がっている。ニューヨーク(国連)にSOSを送る。返事なし。これを何回も繰り返す。この虚(むな)しさをあなたは理解できるか」と切々と訴えられたことがある。当時、安保理案件の70%がアフリカ絡みだった。今も似たようなことではなかろうか。

 (4)は例えばアメリカが孤立主義に引きこもるケースだ。日本からすれば、実際上アメリカが(2)を選択するのが(3)、(4)を選ぶよりずっといいオプションだということが正直ベースではあるだろう。

 国際社会の現実として、危急の際に(1)に基づく決定がタイムリーに得られる保証がないことは、国連創立以来の安保理の歴史に照らしても明らかだろう。アメリカがいざというとき、単独行動主義で仕切ってくれる方が心強いというのが多くの国の本音ではないか。

 ≪一方的な出血サービスはしない≫

 トランプ政権は独特のユニラテラリズムに傾斜している。独特というのは、最近のアメリカの論考に「トランプ氏がならず者の超大国を選択したかに見える」と指摘があったことに関連する。

 その論旨は、米国は戦後自由な世界秩序を構築し、これを守る「世界の警察官」の役割を長く務めた結果、同盟国・友好国が安全保障、経済の面で米国に依存する図柄ができた。皆それに安住してきた。歴代大統領はこれが米国の利益にもなるという認識の下で、「小人のロープに縛られたガリバー」役を受忍してきたわけであるが、トランプ氏の流儀は違うということである。恐らくトランプ氏にはこれがアメリカの一方的な出血サービスに見えるのだろう。

 ブッシュ43代大統領のユニラテラリズムにはこの要素は希薄であり、例えば安保面で大枠においてアメリカが攻撃能力を一手に引き受け、日本は防御的能力の向上に努めるという役割分担を問題視することはなかった。

 トランプ氏の米国は歴代大統領が同意し、受け入れてきた「日本が自らの防衛力整備に課した特別な制約」をあまり斟酌(しんしゃく)しないのではないか。トランプ氏には個人としてよりも彼に化体されたアメリカの心理と現実を表している何かがある。それは戦後、長く続いたアメリカの寛容性の衰退かもしれない。思えばその萌芽(ほうが)は折々に感ぜられていた。

 私自身、冷戦時代からイラク戦争に至るまで時折、米側から日本の安保面での対応について辛辣(しんらつ)なコメントを受けた。やり過ごしたり反論もしたりしたが、アメリカ側には一貫して全てを包みこむユーモアのセンスがあった。今は一人横綱の目は尖(とが)りがちに見える。

 ≪日本は自立的思考と行動のとき≫

 トランプ氏に北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)を期待するとき、トランプ的アメリカは北の短中距離ミサイルの脅威がそれほど深刻なら、日本自身はこれまで具体的に何をしてきたのか聞くだろう。

 日本にも言い分があろうが、日本が自ら求めるCVIDを実現するためには、アメリカ頼みではない日本の自主的行動が必要になっている。それは具体的にはミサイル防衛を含む自衛力の強化であり、プラグマティックな考慮に立った枢要な在日米軍基地の継続的提供を含む諸施策である。

 ただ、日本は悲観的になる必要はない。アメリカは自らの国益として今後ますます太平洋国家たらざるを得なくなるのは必然の趨勢(すうせい)であり、トランプ氏は強い大統領、強い米国の体面を守ろうとするだろう。その場合、信頼に足るパートナーは日本をおいてない。

 日本が賢明、冷徹に国益を考えて行動する限り日米関係は強含みだと思う。強靱(きょうじん)な日米関係の下、より自立性を高めた日本は世界の安定のために必要不可欠なプレーヤーであるはずである。(かとう りょうぞう)