拉致被害者救出への自衛隊の活用を 交渉に「制服」が同席するだけでも圧力になる

葛城奈海の直球&曲球

 その巡視船の船橋(せんきょう)は、銃弾によって穴だらけ、窓ガラスは、衝撃で真っ白に変わっていた。

 平成13年12月22日、九州南西海域不審船事件で北の工作船と交戦した巡視船「あまみ」。その船橋が広島県呉市の海上保安資料館に展示されていることを知る人は少ないのではないだろうか。

 交戦し、自爆・沈没した不審船は、当初、東京の「船の科学館」で、その後、横浜の海上保安資料館(横浜館)に展示されている。かつて見学したが、浸水を防ごうと弾痕にボロ布が詰められていたのが脳裏に焼きついている。

 この事件では、不審船側は10人以上とされる乗組員全員が死亡(推定)、海保側は3人負傷。穴だらけの船橋を目の当たりにし、これでよく海保に死者が出なかったと思うと同時に、戦後の日本でも、国の尊厳を守るために、こうして命がけで任務に邁進(まいしん)する海上保安官たちがいることを、多くの国民に知ってもらいたいという思いが湧き上がった。

 この事件で毅然(きぜん)と対応した結果、以後、不審船の出没はぱたりとやんだと聞く。さらにこの翌年、拉致被害者5人が帰国を果たしている。5人の帰国には、他の要因も働いているとはいえ、少なくとも武威を示すことの現実的効果を、この事件は伝えてくれているのではないか。

 北の工作船は、これまで多くの拉致被害者を北へと連れ去った。政府認定で17人、警察発表で可能性が排除できないとされる行方不明者は883人。そもそも北朝鮮が悪いのは言をまたないが、これだけ長い間、自国民を取り戻せずにいるのは、戦後の日本が「武威」の発揚に、あまりにも臆病になっていることが、その根幹にある。

 予備役ブルーリボンの会(荒木和博代表)は、「拉致被害者救出への自衛隊の活用を求める元自衛隊員・予備自衛官等(とう)の署名」を、このほど発表した。自衛隊の活用が必要なのは、緊張が高まったときばかりではない。例えば、日朝交渉の場に制服を着た自衛官が同席するだけでも、北への圧力になる。武の活用を真摯(しんし)に考えるべきであろう。

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【プロフィル】葛城奈海(かつらぎ・なみ) やおよろずの森代表、防人と歩む会会長、キャスター、俳優。昭和45年東京都出身。東京大農学部卒。自然環境問題・安全保障問題に取り組む。予備役ブルーリボンの会広報部会長、林政審議会委員。著書(共著)に『国防女子が行く』(ビジネス社)。