【正論】『終わった人』をいかに減らすか 高齢者が働きやすい環境づくりを 双日総合研究所チーフエコノミスト・吉崎達彦 - 産経ニュース

【正論】『終わった人』をいかに減らすか 高齢者が働きやすい環境づくりを 双日総合研究所チーフエコノミスト・吉崎達彦

双日総合研究所チーフエコノミスト・吉崎達彦
 2018年もちょうど折り返し地点を越えた。上半期を振り返ってみると、「トランプ劇場」で世界が振り回されることの連続であった。逆に国内経済については、印象に残るニュースは少なかったように思える。
 ≪働き手増えても消費は伸びず≫
 しかし日本経済は、今年上半期にある新記録を樹立している。あまり話題になっていないが、就業者数が史上最高を更新したのである。総務省の労働力調査によれば、今年5月の就業者数は6698万人。これは1997年6月につけた既往ピークの6679万人を上回っている。
 不思議な現象といえよう。何しろこの国は人口減少の真っただ中にある。先月発表された厚生労働省の人口動態統計によれば、昨年のわが国の出生数は94・6万人で死亡数は134・0万人。1年間に40万人近くも人口が減少した。しかも出生率は1・43と改善が見られない。少子・高齢化現象は当面、止まらないと見るべきであろう。
 過去の就業者数ピークである97年は、バブル崩壊後でいわゆる「失われた10年」の最中であった。しかし日本の生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口)はその頃がいちばん多かった。団塊世代の先頭がようやく50歳に差しかかり、団塊ジュニア世代は20代後半の頃である。だから当時は、個人消費も比較的活発であった。
 今はまったく状況が違う。団塊世代の先頭は70代となり、団塊ジュニア世代はもう40代後半となっている。それでも雇用状況は好調で、失業率が2%台で有効求人倍率が1・5倍以上という状態がもう1年も続いている。人手不足のおかげで、労働参加率が上がっている。今年に入ってから、就業者数は5月までに156万人も増えた。昨年末に比べると2・4%の伸びである。
 ここでもうひとつの謎が浮かび上がる。「働き手」がそれだけ増えたのなら、当然のことながら個人消費も伸びるはずである。ところが今年1~3月期の実質国内総生産(GDP)は久々のマイナス成長であったし、その内訳をみると個人消費は前期比微減となっている。さあ、いったい何が起きているのか。
 ≪好条件で処遇されない再雇用≫
 謎解きの手掛かりは、増えた働き手の中身にありそうだ。今年になってからの就業者数の増加分を調べてみると、男女比はほぼ半々で、年代別にみると実に約半分を65歳以上が占めている。
 考えてみれば、当たり前の話なのである。この国には若い男性のリザーブがもうあまり残っていない。それで人手不足になっている分を、女性と高齢者が埋めてくれている。人生100年時代、なるべく長く働きたいという人は少なくないはずだ。おそらく今年に入ってから定年後の再雇用契約が一気に増えたのではないか。
 しかるにその処遇はあまり好条件ではなかったようで、消費の拡大にはつながっていない。言い尽くされたことではあるが、日本経済に必要なのは生産性の向上と「賃上げ」ということになる。
 とはいえ、高齢者や女性が労働市場におけるニューカマーになっているのは歓迎すべき方向といえよう。外国人労働力の受け入れ拡大の議論も始まっているが、まずは日本人の就業率向上を考えるのが先決であろう。特に高齢者の方々に長く働いてもらうことは、社会の要請から言っても、ご本人の健康面から言っても望ましいことといえよう。
 ≪『終わった人』をいかに減らすか≫
 ここで重要なのは、就業者数の中には雇用者数のみならず、自営業や家族従業者も含まれるということである。高齢になって会社を離れるとき、仕事を続けるかどうかで迷う人は多いだろう。そういう人には、なるべく自営業という形で、マイペースで働いてもらってはどうだろうか。
 退職後に自分で会社を設立し、技能や人脈を生かして長く働こうとする人は筆者の周囲でも多い。ところが実際に話を聞いてみると、事務手続きが煩雑であるとか、社会保険への加入が義務付けられているといった不満を聞く。いよいよ会社を手じまいするときに廃業手続きが面倒だともいう。
 個人事業主を選べばその点は楽になるが、社会的な信用では劣るし、社員を雇うことも簡単ではない。経費の幅も狭くなるし、所得税や住民税の税率はもちろん法人税よりも高くなる。
 ここは工夫の余地があるのではないだろうか。あと数年で仕事を辞める予定の人を、無理やり厚生年金に入れる必要はないだろう。あるいは悠々自適になる予定を変更して稼いでいる分の税金は、少しくらい軽減しても良いのではないか。フリーランスで働くシルバー層を支援する、使い勝手のいい制度を考えたいものである。
 仕事一筋で過ごしてきた会社員が、定年になると同時に『終わった人』になるという映画が評判になっている。そういう人を減らしていくことも、立派な成長戦略のひとつになると思うのである。(よしざき たつひこ)