JOCは「日大問題」で汗をかけ

津田俊樹のスポーツ茶論
日本大学の田中英寿理事長(千村安雄撮影)

 いつも会議が始まる直前に現れた。広い肩幅、厚い胸板の身を仕立ての良い紺のスーツに包み、席に着いた。出席しても黙して語らず。閉会になると、あっという間に消えていった。

 会議とは日本オリンピック委員会(JOC)理事会。“半端ない”威圧感を放つ人物は、アメリカンフットボール部の悪質タックル問題で揺れる日本大学の田中英寿理事長である。

 日大理事長として、日大グループ全体を揺るがす事態の責任を追及されている田中氏は昨年、70歳定年制により副会長を退任するまで、JOC内で異彩を放っていた。

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 「副会長のままでしたら、われわれも巻き込まれていたでしょうね」。日大アメフット問題が発覚した後、JOC関係者が胸をなでおろした。

 田中氏は、五輪の競技種目でもない日本相撲連盟からJOC理事に選任されると、1990年代後半の人事抗争で、持ち前の“パワー”を発揮してみせた。

 「フジヤマのトビウオ」として国民的英雄だった古橋広之進会長(当時)に反旗を翻したグループを排除して、中枢につながる階段を上り始める。

 古橋路線を継承する八木祐四郎会長誕生に尽力して存在感を増した。2001年に八木会長が急逝すると、その後を継いだ竹田恒和会長を支え、常務理事、副会長に就いた。

 文字通り、押しも押されもせぬ首脳陣の一員になったが、表舞台に立とうとはしなかった。

 20年東京五輪・パラリンピックの開催が決定した後、田中氏と親交のあるスポーツ界の重鎮に、かねて抱いていた疑問を投げかけてみた。

 「さまざまなことが取り沙汰される人物が副会長では、五輪の準備に影響を及ぼすのでは?」

 「彼には彼なりの手法がある。もっともらしいことをいうだけで、いざとなると何もしない連中より、よほど頼りになる」

 海外の報道機関が伝えた交友関係についても尋ねたが、「本人が否定しているのだから、それを信じるしかない」と、徹底した「田中擁護論」にはねつけられてしまった。それだけ、触れられたくなかったのかもしれない。

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 国際オリンピック委員会(IOC)の五輪憲章第1章に、IOCの役割が記されている。

 《スポーツにおける倫理の振興、優れた統治およびスポーツを通じた青少年の教育を支援、奨励するとともに、フェアプレーの精神がすみずみまで広まり、暴力が閉め出されるべく努力すること》

 IOCは人種・女性差別、暴力に対して妥協しない。弁護士出身のトーマス・バッハ会長は、コンプライアンス(法令順守)に厳しい。「2020年」を控える日本で起きた悪質タックル問題の推移、処理を注視している。対応を誤れば、思わぬ事態を招くかもしれない。

 日本アメフット協会はJOCの準加盟団体である。6月上旬に開かれたJOC理事会で、一連の問題は取り上げられなかった。

 これだけ耳目を集めているのに「正」も「準」加盟もない。副会長職に就いていた田中氏が渦中の人になっているのだから、対岸の火事ではすまされない。

 JOCは、強い指導力で暴力を一掃する道筋をつける責任を担っている。危機感をもって汗をかくときである。