6月29日

産経抄

 平成9年に『チャートでみる日本の流行年史』という本が出ている。たとえば、「ベストセラーの50年史」の見出しのついたページを開いてみよう。『日米会話手帳』が、日本人の英語好きの道筋をつけた。やがてハウツー本の典型として、『冠婚葬祭入門』が登場する。しめくくりは、読者の心のすきまを埋める「生き方本」の大ヒットである。

 ▼当時フリーのマーケティングプランナーだった著者の女性は3年後、「辰巳渚」のペンネームを得て、自らベストセラーの歴史に加わることになる。『「捨てる!」技術』(宝島社新書)は、130万部のミリオンセラーとなった。

 ▼まず「捨てるための考え方10カ条」で、従来の整理法整理術にとらわれている読者の意識転換をうながす。続く「テクニック10カ条」では、具体的なアドバイスを行った。あふれるモノとの格闘に、疲れ果てた人々の心をつかんだ。

 ▼その後も「断捨離」という言葉が流行語となった。最低限の持ち物で生活する「ミニマリスト」の存在も注目されるようになった。実家の片付けや「終活」にも、関心が集まっている。辰巳さんが提案した新しいライフスタイルは、すっかり日本人に定着したといえる。

 ▼辰巳さんは近年、「生活哲学家」の肩書を使うようになった。「捨てる技術」にとどまらず、料理から片付けまで生活の基本を学び直して、一人一人に自立をうながす活動を行ってきた。今年2月には「株式会社 生活の学校」を設立する。教育事業を展開しようとしていた矢先に、飛び込んできた訃報である。

 ▼長野県軽井沢町で26日朝、辰巳さんは大型バイクでご主人とツーリング中、軽乗用車と正面衝突、搬送先の病院で亡くなった。52歳の若さだった。