【産経抄】6月24日 - 産経ニュース

【産経抄】6月24日

 米サンフランシスコで生まれたその女の子は、名を「ハナビコ」という。誕生日は1971年7月4日。独立記念日の夜空に映えた花火が由来である。生後まもなく栄養失調でやせ細り、母親と引き離されて育った。
 ▼女の子は「ココ」の愛称でかわいがられ、1歳を過ぎた頃には身ぶりで食べ物や飲み物をねだり始めている。手の動きでモノを指し示す言葉も覚えた。「上に」や「あれ」など抽象的な単語を操り、周囲を驚かせたとも聞く。そう、ローランドゴリラの物語である。
 ▼「かわいい」「好き」など感情のひだをなぞるような言葉を含め、ココは千語以上の手話を理解したとされる。慣れた手つきで著名俳優と「会話」する動画に心をなごませた人は多いだろう。子猫をわが子同然に慈しむ写真が、自然科学雑誌の表紙を飾ってもいる。
 ▼研究者との間に印象深いやりとりがある。「ゴリラは死ぬと、どこに行くの?」と問われ、ココは「苦労のない 穴に さようなら」と手話で返したという(『ココ、お話しよう』どうぶつ社)。彼女が46年の生涯を閉じたとの訃報を、小紙ウェブサイトで読んだ。
 ▼人と高等動物とでは心の持ちように差があるとしても、「質の問題ではない」とダーウィンは述べている。人の世にはしかし、暴力や言葉でわが子を虐げ、何食わぬ顔をする親もいる。親から引き離さなければ、子供の命を守れない。それが嘆かわしく、情けない。
 ▼ココを保護した米カリフォルニア州の「ゴリラ基金」によると、眠っている間に静かに息を引き取ったという。安らげる土に返ったのか、あるいは天に召されたのだろうか。ココ、今度は人の子に生まれておいで-と書きかけて、ふと、ためらいを覚える。それもまた、悲しい。