【春風亭一之輔の直球&曲球】最近、日本中が口汚く怒っている それもネットでこそこそね - 産経ニュース

【春風亭一之輔の直球&曲球】最近、日本中が口汚く怒っている それもネットでこそこそね

 こないだ、見ず知らずの人に怒られた。落語会の会場ロビーですれ違ったオジさんから「こないだテレビでまた同じ演目やってたね! 他にネタないの!?」。
 けっこうなけんまく。
 「次は違うネタをやってよっ! 勉強が足りないよっ!」とオジさん。私も「はは、すいませんでしたね~」とやり過ごす。『はは』と『ね~』に精いっぱいのモヤモヤを込めたのだが、たぶん伝わってないと思う。
 オジさんは「勉強不足」の私を、「正しい方向」へ導こうとしていた。「俺はごまかせないぞ! いつだってお前を見ているぞ!」というキラキラと真っすぐな、まなざし。
 きっとあの方はいろんなことに憤り、正しい道へ導くのが好きなオジさん。まぁ、ホントに落語を好きな人は、同じ噺(はなし)を何回聴こうがあんなに怒ったりはしないけどな…。
 だからあの導きオジさんは「テレビで食べ物を粗末にしている! 子供がまねをしたらどーする!?」とか「ロックバンドが書いたこの詞は戦争を賛美してるじゃないか! けしからんっ!」とか「落語家がテレビの大喜利で政権批判した! そんな偏向した番組はやめろ!」とか…そんな怒りんぼうが集まって出来上がったモンスターが、あのオジさんなのだ、と思うことにした。
 なら仕方ない。少しスッキリ…いや、またモヤモヤしてきたぞ。
 最近、日本中が怒っている。しかも怒り方が口汚い。あのオジさんのように面と向かって言うならまだいいが、ネットでコソコソ誹謗(ひぼう)中傷罵詈(ばり)雑言を駆使して、顔を知らない者同士が怒りをぶつけ合っている。
 あの時、私はオジさんにひとこと言やよかった。「私の売り物のネタなんで勘弁してくださいな。また勉強するからさ」って。
 そしたらオジさんがどういう反応するか。
 「あんなネタが売り物か!?」と言うか「そうなんだ? わるいわるい!」と言うか。どっちにしてもそこからがコミュニケーションの始まりなのだ。
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【プロフィル】春風亭一之輔
 しゅんぷうてい・いちのすけ 落語家、昭和53年千葉県生まれ。日大芸術学部卒。平成13年、春風亭一朝に入門して朝左久、二つ目昇進時に一之輔を名乗る。24年、21人抜きで真打ちに抜擢(ばってき)。古典落語の滑稽噺を中心に、人情噺、新作など持ちネタは200以上。