【産経抄】6月19日 - 産経ニュース

【産経抄】6月19日

 ナマズが地下で暴れると地震が起こる。江戸時代に広まった俗信は日本独特のものだ。地震考古学が専門の寒川旭(さむがわ・あきら)さんによれば、生みの親は豊臣秀吉である。
 ▼「ふしみのふしん、なまつ(ナマズ)大事にて候」。伏見城の築城に取りかかっていた1593年、工事(普請)を担当していた家臣にこんな手紙を送っている。地震をナマズにたとえて、しっかり備えるよう命じる内容だった。
 ▼秀吉はその7年前、琵琶湖西岸の坂本城で天正地震に遭遇していた。地震で琵琶湖のナマズが暴れた、との噂を耳にしたのかもしれない。もっとも秀吉の警告もむなしく、伏見城は1596年の慶長伏見地震で倒壊する(『秀吉を襲った大地震』)。
 ▼大阪府北部で昨日発生した震度6弱の地震は、通勤の時間帯を直撃した。交通機関は軒並みストップして、駅は人であふれた。高層ビルのエレベーターに閉じ込められる被害も相次いだ。あらためて、強い揺れに対する大都市の機能の脆弱(ぜいじゃく)性が露(あら)わになった。高槻市では、登校中の9歳の女児が、倒れたブロック塀の下敷きになって死亡する、悲惨な事故も起こっている。
 ▼震源は、神戸市から高槻市へ東西に延びる有馬-高槻断層帯のすぐ東側に位置していた。慶長伏見地震を引き起こしたのも、この断層帯の活動だった。周辺には、大阪市の中央を走る上町断層帯や生駒断層帯、六甲・淡路島断層帯など、多くの活断層が密集している。
 ▼23年前の阪神大震災以降、秀吉の時代と同じ地震の活動期に入ったようだ。17日には群馬県でも、震度5弱の地震が観測された。東日本大震災の忌まわしい記憶もよみがえる。「なまつ大事」を肝に銘じて、被害を最小にするために防災体制の充実を急ぐしかない。