新幹線で凶行 安全のため何ができるか

主張

 東海道新幹線「のぞみ号」の車内で乗客の男が突然、刃物を振り回し、男性1人が死亡、女性2人が負傷した。亡くなった男性は、襲われた女性をかばって止めに入り、切りつけられた。男性の勇敢な行動がなければ、被害はさらに拡大した可能性もあった。

 悲劇を繰り返さないために、何ができるか。これが難しい。まず、できることから始めなくてはならない。

 男は「相手は誰でもよかった」と供述しているという。これは新幹線車内という閉鎖空間で起きた犯行だが、実質的には無差別の通り魔事件である。前触れなき突然の悪意に社会は無力だ。

 新幹線乗客に空港並みの手荷物検査を求めることは、現実的ではない。東海道新幹線では1日45万人以上の乗客を数える。新幹線だけではなく、在来線や私鉄にも「通り魔」の危険はある。

 全員の手荷物検査の導入は各地に長蛇の列を生み、利用者の利便性を著しく損なう。警察官の車内常駐は大幅な人員増が必要で、これも非現実的である。

 東海道新幹線では平成27年、男が焼身自殺し、乗客1人が巻き添えで死亡した。これを受けて鉄道各社は可燃性液体の車内持ち込みを禁じ、JR東海は新幹線車内の防犯カメラを通路や客室部分に増設したが、今回の犯行を防ぐことはできなかった。

 当面は、乗務員や警備員による車内見回りの強化や、警棒、さすまたの常備などの軽武装で対処するしかあるまい。

 東京五輪などの重大警備実施時には、主要駅で警察官や警察犬による「見せる警備」で犯行を抑止することも必要だ。その一環で、抜き打ちによる手荷物検査にも一定の効果が期待できる。

 将来的には、利便性と両立する形で爆発物や可燃物、凶器を瞬時に機械的に検知できるゲートシステムの開発にも期待したい。

 ただし残念ながら、100%の安全はない。その確率を高めるための措置をどれだけ重ねられるかが重要であり、それには事業者任せではなく、一般乗客の理解が必要である。

 警備強化や防犯カメラの増設には必ず「監視社会につながる」などの反対がある。だが、安全の確保は常に負担を伴う。そのために何を我慢できるか。国民一人一人への宿題でもある。