【産経抄】6月6日 - 産経ニュース

【産経抄】6月6日

 作家の故遠藤周作さんは、頭髪が薄くなったことに気がついて以来、できるかぎりの手を尽くしてきた。養毛剤をあれこれ試し、理髪店では卵の黄身で頭を洗ってもらった。カツラを使ってもみた。
 ▼その一方で、「現代医学ではどうにも恢復(かいふく)できないという哀(かな)しい諦めもある」。半世紀近く前に書いたエッセーの一節である。しかし、その後の科学の発達はめざましい。理化学研究所などの発表によれば、髪の毛を大量に増やす再生医療技術が開発された。
 ▼患者自身の後頭部から皮膚をごく一部取り出し、髪の毛のもとになる毛包組織を培養して、頭皮に移植する。治療の対象となるのは、全国で1800万以上の患者がいる男性型脱毛症である。近くマウスで実験を行って安全性が確認できれば、来年にも臨床研究が始まる。
 ▼4000年前の古代エジプトのパピルスに、抜け毛に悩む男性の記録がすでに残されている。ローマ帝国初期の英雄、ユリウス・カエサルも、薄くなった頭を月桂樹の王冠で隠そうと腐心した。しかし、ツルツル頭を前向きにとらえる人たちだって少なくない。
 ▼「はげの光は平和の光 暗い世の中 明るく照らす 日本も光る 世界も光る」。青森県鶴田町で平成元年に設立された「ツル多はげます会」のスローガンである。頭に付けた吸盤でひもを引っ張り合う「吸盤綱引き」大会を毎年開催している。2年前には禿頭(とくとう)自慢の会員の川柳を集めた本を出版した。メディアに盛んに取り上げられて、小さな町はすっかり有名になった。
 ▼会の目標は、鶴田町を「世界のハゲ」の聖地にし、「HAGE」を世界の公用語にすることだ。世界に先駆けて日本が脱毛症の治療法を完成するのと、どちらが早いだろう。