司法取引 組織犯罪捜査の切り札に

主張

 新たな捜査手法として期待される日本版の司法取引制度が、6月1日からスタートした。

 容疑者や被告が共犯者らの犯罪事実解明のために供述する見返りに、起訴の見送りや刑を軽減することができる。

 贈収賄や脱税、詐欺といった財政経済犯罪や、銃器・薬物犯罪に加え、独占禁止法違反や著作権法違反なども対象となる。容疑者や被告が自らの罪を自白することは、対象とならない。

 刑事司法改革による取り調べの録音・録画(可視化)の義務付けで自供が得られにくくなる可能性が指摘され、新たな捜査手法が求められていた。組織犯罪捜査で困難を極める首謀者の摘発などに有効とされる。

 懸念されるのは、虚偽の供述が冤罪(えんざい)を生むことである。

 自らの刑を軽減するため、無実の他人に罪を押しつける可能性が否定できない。このため取引合意に向けた協議には弁護人が関与することが義務づけられ、虚偽の供述をした場合の罰則を定める虚偽供述罪も新設した。

 捜査当局は司法取引で得た供述を端緒とし、裏付け捜査を徹底して証拠を集め、供述内容を固めることが求められる。裁判所は、その信用性を厳しく見極める必要がある。新たな捜査手法を定着させるには、地道に適正な運用実績を重ねて国民の信頼、信用を勝ち取らなくてはならない。

 上川陽子法相も、「検察当局は、刑事司法の在り方と調和させながら運用実績を積み重ね、時間をかけて、制度を定着させていく方針だ」と述べた。

 最高検は3月、全国の地検と高検に、基本的な司法取引の運用方針を通達し、重要な証言や証拠を得られる見込みがあるか、供述が十分信用できるかなどを見極める必要があるとしている。

 これはいわば、捜査の原則であり、常道である。地検が司法取引を使う際、当面は高検検事長が最高検と協議しながら指揮して慎重に運用するのだという。

 そうした実績を重ね、新制度が社会の信用を勝ち取れば、将来的にはテロ集団や暴力団関連の犯罪にも対象罪種を拡大することを検討すべきだ。

 司法取引の究極の目的は、首謀者を逃さないことにある。巨悪を眠らせないための捜査手法に育て上げてほしい。