【日曜に書く】ベーブ・ルースから大谷翔平へ…大リーグ100年の歴史をまたぐ 論説委員・別府育郎 - 産経ニュース

【日曜に書く】ベーブ・ルースから大谷翔平へ…大リーグ100年の歴史をまたぐ 論説委員・別府育郎

エンゼルスの大谷翔平=エンゼル・スタジアム(撮影・リョウ薮下)
ベーブ・ルース
 ジョン・グッドマンという俳優がいる。「バートン・フィンク」や、早世したジョン・ベルーシに代わってダン・エイクロイドの相方を務めた「ブルース・ブラザース2000」での怪演が印象深い。名脇役の彼がその巨漢ぶりを生かした主演作に「夢を生きた男 ザ・ベーブ」がある。粗野でだらしのない私生活が描かれながら、子供好きの球界最大の英雄、ベーブ・ルースへの愛に満ちあふれた作品だった。よほど練習を重ねたのだろう。巨体をねじるような打撃フォームや、前のめりぎみに塁間を駆ける姿がいかにもニュース映像で知る本物のルースに似て、ほほえましかった。
 米国の俳優はマフィアと野球選手の役がうまい。
 「フィールド・オブ・ドリームス」でシューレス・ジョー・ジャクソンに扮(ふん)したレイ・リオッタはいかにも昔の外野手らしく、「タイ・カッブ」のトミー・リー・ジョーンズの酷薄ぶりにはぞくりとさせられた。「メジャーリーグ」のチャーリー・シーンは、実際に130キロ台の速球を投げたという。
 野球映画の最高峰は、ゲイリー・クーパーがルー・ゲーリッグを演じた「打撃王」だろう。原題は「ヤンキースの誇り」。感動の引退スピーチが涙を誘うこの作品のルース役は、ルース本人だった。余人をもって代え難し、だったのだろう。日本の俳優もやくざ役は見事だが、野球選手を演じると、どうにも不自然さが目立ってしまう。
大谷翔平
 マリナーズのイチローは2008年、8年連続200本安打でウィリー・キーラーの大リーグ記録に並んだ日、「100年の時間が間に横たわり、本来なら決して交わるはずのないキーラーと自分に接点が生まれたことが、何よりすごいことだと思う」と話した。
 他にもイチローは数々の記録を塗り替えるたびに、ジョージ・シスラーやシューレス・ジョー、カッブら先人の名を蘇(よみがえ)らせてきた。そのイチローが「世界一の才能」と評するエンゼルスの大谷翔平が、まさに100年前の記録に挑んでいる。
 1918年、レッドソックスに在籍していたルースは投手として13勝を挙げ、打者では11本で本塁打王となった。これが大リーグ史上唯一の同一シーズン2桁勝利2桁本塁打の二刀流記録であり、大谷は着実にその聖域への歩みを進めている。
 2018年の大谷は、何をやっても「ルース以来の記録」と騒がれる。例えば先発登板した年に3試合連続本塁打、先発投手で勝った次の試合で打者として本塁打-などなどだ。
 アメリカ人は、ルースが大好きだ。ルースの名を思い出させてくれる大谷もまた、愛されようとしている。
 象徴的なシーンがあった。4月8日のアスレチックス戦に先発した大谷は、七回1死まで完全試合を続けた。20人目の打者に三遊間安打を許すと、スタンドは総立ちの拍手を大谷に送った。守る野手も皆、柔らかな笑顔をみせた。完全試合が途切れたことで極度の緊張が解けた安堵(あんど)の拍手であり、表情だったのだろう。これこそ、彼が愛されている証左とみえた。打たれて人を笑顔にする投手を、これまで見たことがない。
ビヨンセ
 「投手で4番」は野球少年の究極の憧れである。セイバーメトリクス、スモールベースボール、管理野球。大谷の二刀流は、野球をとことん数値化して確率を求める現在の傾向に逆行する時代遅れの挑戦なのかもしれない。いや、時代を超越した存在というべきなのだろう。
 ルースから100年をまたぐ大谷の剛球やフルスイングに、日米の野球ファンが興奮している。その幸福な光景をいかに切り取るか、全米各紙も大谷賛歌を競っている。
 例えば「デンバー・ポスト」は、試合前の打撃練習で豪快な特大弾を連発する大谷を評してこう書いた。「人間死ぬまでに見ておきたいものがあるとすれば、万里の長城、アイスランドのオーロラ、そして大谷の試合前の打撃練習だ。投げて打てる23歳の大谷は、歌って踊れるビヨンセのようだ。本塁打は大きくて美しく、ときに人を傷つける心配がある」
 大谷も将来、伝記映画の主役となるかもしれない。だが、193センチの長身から165キロの速球を投げ、松井秀喜の力強さとイチローの柔らかさを備える童顔の好青年を、誰が演じられるというのだろう。(べっぷ いくろう)