【主張】iPS心臓病治療 「前のめり」戒め支えたい - 産経ニュース

【主張】iPS心臓病治療 「前のめり」戒め支えたい

臨床研究が条件付きで承認され、取材を受ける大阪大の澤芳樹教授=5月16日午後、東京・霞が関
 さまざまな臓器や組織の細胞に分化できる人工多能性幹細胞(iPS細胞)を、重い心臓病患者に移植する大阪大学の臨床研究計画が厚生労働省の部会で了承された。
 「難病の患者を救いたい」という思いから京都大学の山中伸弥教授が開発したiPS細胞による再生医療が、実用化に向けて新たな段階に入る。
 再生医療の切り札として日本発のiPS細胞にかかる期待は大きい。世界から注目される。だからこそ、性急に成果を求めるのではなく、安全性に最大限に配慮して着実に前進させてもらいたい。
 阪大の臨床研究は、重症の虚血性心筋症の患者に、京大が作製、備蓄しているiPS細胞から作った心筋細胞のシート(膜)を移植する。臨床研究で先行している目の難病「加齢黄斑変性」に比べて移植する細胞の数が多く、がん化などのリスクは格段に高い。
 患者の命にかかわる治療は「最も安全に配慮した形で実施」(澤芳樹・阪大教授)されなければならない。そのうえで、今回の治療や臨床研究の意義、想定されるリスクと対処法などを患者に対してはもちろん、再生医療を支える国民に向けても丁寧に説明することが重要である。
 医療、製薬の分野で、日本は基礎研究では世界でもトップクラスの実績があるのに、臨床研究や製品化の段階で欧米に遅れるケースが多いと指摘される。政府は再生医療を成長戦略の一つに位置づけ、安全かつ迅速な実用化を目指して「再生医療推進法」を5年前に定めた。ヒトのiPS細胞作製から10年で、本格的な臨床研究に踏み出す異例の早さには、こうした背景がある。
 阪大がリスクを負って臨床研究に取り組むこと自体は、前向きに評価したい。
 一方で、「基礎研究や動物実験をもっと重ねるべきだ」という慎重論がある。再生医療への国の投資がiPS細胞に偏り、欧米で実績がある胚性幹細胞(ES細胞)とのバランスを欠くという指摘もある。慎重論や批判に対しても耳を傾け、再生医療の総合力を高めていくことが大事だ。
 臨床研究で重大な問題が生じれば、日本の再生医療が全面停止に陥りかねない。
 目の前の成果や経済効果にとらわれて「前のめり」になることは厳に戒めなければならない。