稀勢の里休場 復帰場所で死力を尽くせ

主張

 力感あふれる土俵を再び見せてほしい。そう願うのは酷だろうか。大相撲の横綱稀勢の里が、初日を迎えた夏場所も休場することになった。

 これで7場所連続休場だ。年6場所制となった昭和33年以降では、「平成の大横綱」と呼ばれた貴乃花(現貴乃花親方)と並び最長となる。

 7月の名古屋場所は、進退を懸けた土俵となる。十分に休んで備え、納得のいく形で、死力を尽くして戦ってもらいたい。

 稀勢の里を苦しめているのは、新横綱として立った昨年の春場所終盤で負った左胸のけがだ。その場所は痛みに耐えて強行出場し、逆転優勝をつかみ取った。記憶に残る快挙とはいえ、あまりにも大きな代償である。

 左胸の負傷を機に体のバランスは崩れたままだ。十分な稽古を積めず、相撲勘が戻らないまま別の部位にもけがを重ねる。その悪循環に悩まされ続けている。

 日本出身の横綱として国民の期待を一身に担い、重圧に耐える姿に賛辞は惜しまない。しかし、盛時の相撲には、他を寄せ付けない強さがあった。その残像が好角家の脳裏に刻まれている。だからこそ、ここ1年の不振に寄せられる批判も多い。

 平成13~14年に7場所連続休場した貴乃花は、いずれも全休だった。横綱審議委員会から出場勧告を受けて出場したものの、復帰からわずか3場所目に引退した。

 稀勢の里が横綱として皆勤したのは、逆転優勝した昨年春場所の1度だけだ。結果がどうあれ、土俵を15日間務めてほしいというのがファンの心理だろう。

 しかし、土俵に立てばいいという地位ではない。大関時代の稀勢の里は横綱北の湖を理想に掲げ、「ファンに『負けてほしい』と思われるほどの力がほしい」と語っていた。形だけの復帰で延命を図るのは望んでいないはずだ。

 白鵬、鶴竜の両横綱も近年はけがが多く、盤石とは言い難い。土俵の活性化には、新三役となった小結遠藤ら、若手の台頭が待ったなしである。

 混乱が続いた角界は、暴力問題の再発を防止する取り組みに加え、土俵の女人禁制を緊急時には例外とするなど、改革の兆しが見える。稀勢の里には、変わりゆく角界の象徴であり続けてほしい。何よりも、満座の喝采を浴びる姿がもう一度見たい。