【風を読む】人災でも緊急事態は起きる 自民党憲法改正案に見過ごせない欠陥 論説副委員長・榊原智 - 産経ニュース

【風を読む】人災でも緊急事態は起きる 自民党憲法改正案に見過ごせない欠陥 論説副委員長・榊原智

 災害には天災(自然災害)と人災の2種類がある。どちらも大規模になれば、極めて多くの国民の命を奪い、国家社会の秩序を失わせることがあり得る。
 前者は大規模な震災や噴火、津波だろう。後者は核攻撃を含む戦争や生物兵器などによる大規模テロ、電力網など基幹インフラへの広範な破壊工作といったところか。めったに起きないし、起きてはならないことだが、これらを緊急事態という。
 今の憲法は、緊急事態に直面したとき、政府に一時的に権限を集めて、全力で国民と国家を救うよう行動させる仕組みを定めていない。「平和憲法」ならぬ「平和ぼけ憲法」といえる所以(ゆえん)である。今も災害対策基本法などはあるが、自治体や国会、省庁がそれなりに機能することを前提にしている。憲法で定めるべき緊急事態には及ばない。
 各国の憲法には緊急事態条項が備わっている。国連で採択された条約「国際人権規約」(B規約)も、緊急時の一時的な自由、権利の制限を認めている。自由や権利を享受する国民の命と、それを保障する憲法秩序自体を守る上で、必要な場合があるという国際常識に基づく。
 自民党憲法改正推進本部は改憲4項目の一つに「緊急事態条項の創設」を掲げ、国家緊急権の明文化を試みた。それに拒否反応を見せ、国民を守らない政党もある。自民党ははるかにまっとうだ。
 とはいえ、自民党案には見過ごせない欠陥がある。(1)緊急事態を天災に限定し、有事などの人災を除いた点(2)法律と同等の効力を持つ緊急政令の発出を内閣に認めたが、緊急財政支出や自治体への指示権は認めていない点-がそれである。
 最も激しい惨禍をもたらす緊急事態を、天災か人災かという原因で区別していいわけがない。また、天災と人災が同時期に発生する「複合事態」になったらどうするのか。
 「大規模な天災には備えるが、大規模な人災は関知しない」憲法など、世界に対して恥の上塗りにならないか。自民党と安倍晋三首相(党総裁)が気づき、正してほしい点である。