高まるネットの存在感…「電力」を夢見る放送改革 論説委員・井伊重之

日曜に書く

 政府の規制改革推進会議が放送制度改革の本格的な検討を始めた。その主題は、過去に何度も浮かんでは消えた「通信と放送の融合」である。とくに最近はインターネットメディアの存在感が急速に高まっており、その中でテレビのあり方をどのように見直すのかが焦点となっている。放送に政治的な中立などを求めた「放送法4条」の撤廃論まで飛び出し、大きな論争に発展している。

「放送法4条」撤廃論も

 通信環境が整備され、ネットによる動画配信や生中継が手軽に視聴できるようになった。若年世代ではテレビとネットを併用して見る人も多い。様変わりする視聴スタイルを背景にして、テレビなど放送に対する規制を廃してネットなどの通信と同じ土俵で競い合わせる。そうして世界で勝てるコンテンツ産業を育てようというのが規制改革会議の狙いである。

 しかし、この制度改革は主にソフト関連産業の育成という産業政策として検討が進んでいる。そこには公共の福祉や公益性の確保など、放送に課せられた役割をどう考えるかという視点が欠けている。放送局に対する外資規制の撤廃なども含め、民放業界だけでなく、政府・与党からも強い反対論が相次いでいるのはこのためだ。

 強い逆風を意識してか、放送法4条の撤廃論は急速に下火となった。その一方で規制改革会議が熱心に議論を進めているのが、放送局の番組を作るソフト部門と、放送設備を運営・維持するハード部門を分ける「ソフト・ハード分離」である。

 日本では番組の7割が放送局向けに制作されている。この番組制作を放送局から分離し、競争を通じて多様な番組を視聴者に提供しながら、輸出にも活用することを目指している。米国では大手ネット企業のネットフリックスやアマゾンなどが多額の制作費を投じてネット向けに独自番組を制作し、放送局などにも提供している。

 政府関係者は「日本では放送することを前提に番組が制作されており、競争原理が働いていない」と指摘する。勢いのあるネットメディアの力を借りて番組制作で競争を促し、その中で日本発のコンテンツを世界に向けて発信したいというのが、今回の放送制度改革の本丸だ。

「発送電分離」をモデルに

 この規制改革にはモデルがある。電力会社の発電部門と送配電部門を分ける「発送電分離」を柱とする電力システム改革である。発送電分離では送配電部門を電力会社から切り離し、新規参入した新電力が送配電網を使いやすくすることで、料金やサービスの競争を持ち込むのが目的だ。電気事業法が改正されて2020年4月には発送電が分離されるが、これに先立って電力業界では発送電を分ける動きが始まっている。

 電力小売りも2年前に全面的に自由化され、電力業界の競争は激化している。今では太陽光をはじめとした再生可能エネルギーなどの新電力は、電力市場で約1割のシェアを獲得するなど高い存在感をみせる。発送電が正式に分離されれば、新電力のシェアはさらに高まるとみられる。放送業界にも電力業界と同じ規制改革を導入し、テレビとネットで番組制作をめぐって競争させる狙いがある。

支持されるコンテンツを

 地上波のテレビやラジオについては、ハードとソフトの一体運営を前提に国が免許を与えてきた。だが、2010年には規制改革を受けて放送法が改正され、放送局が分離か一体運営かを選べる仕組みを採用した。発送電分離と同じ構造はできたものの、実際に番組制作を分離する動きはみられない。

 規制改革会議で放送制度を議論している作業部会では、電力改革を主導した大学教授や分社化された電力小売会社からヒアリングを実施した。その後の検討でも放送局が放送設備を共有化して負担を軽減し、市場参入を促す仕組みの整備を求める意見も上がっている。

 こうした分離論に対し、次期民放連会長に内定している日本テレビ放送網の大久保好男社長は「番組制作の自由度がなくなり、災害放送やスポーツ中継の延長時の放送などもしにくくなる」と反対姿勢を強めている。

 日本における放送と通信の融合の行方は不透明だが、海外と見比べて制度改革をいくら論じても、視聴者から支持される優良なコンテンツを提供できなければ、メディアとして生き残れないのはテレビもネットも同じだ。そのことも忘れてもらいたくない。(いい しげゆき)