5月6日

産経抄

 今年は雲の育ちが例年より早いように映る。盛夏の季語である「雲の峰」とまではいかないものの、上へとかさを増す積み雲が、空に夏さながらの奥行きを与えている。沿道の植え込みに咲いたツツジは見頃もつかの間、時ならぬ炎暑に色あせ、しなびた花を路傍に散らしていた。

 ▼シバザクラで知られる埼玉県秩父市の羊山公園も1週間ほど季節の巡りが早い。市に尋ねると「4月22、23日がピークでした。いつもは静かな春なのに、こう早く初夏が来るとは」。大型連休のにぎわいを待たずに、時期を終えたという。今年は5日が立夏だった。

 ▼春まだ浅い奥秩父のシャクナゲなど、開花を待つつぼみは多い。せっかちな夏が山野の暦を狂わせはしないか気になるところである。〈蛇口よりはしれる水に顔をうつ日にいくたびぞ夏はちかづく〉小池光。詩歌の引用も暦より空をにらむ必要があるかもしれない。

 ▼最長9日間の大型連休は瞬く間に過ぎ、緩んだネジをあわてて締め直す親御さんや子供も多いだろう。早緑(さみどり)から日に日に色を濃くする山野と別れ、林立する都心のビルを前に嘆息が止まらぬ人もいようか。とまれ、身の回りのものが色彩を帯びる季節には違いない。

 ▼木々の緑をはらんだ風が、汗ばむ首筋に心地よいひとはけを残すのもこの時期だろう。「風景の美しさの半分は、空が受け持っている」と井上靖は書いた。小紙の社屋がある東京・大手町は、風景のあらかたを高層ビルが受け持つものの、空の青はそれゆえ映える。

 ▼季節は正直なもので、先日まで路面に落ちていた建物の長い影を払うほどに真昼の太陽は高い。頭上から落ちてくる日差しの厳しさは、はや真夏のそれである。6月下旬の夏至に向けて日脚もまだまだ伸びていく。