5月4日

産経抄

 はて、月に水があったのか、と首をかしげる小欄は、よほどの科学オンチである。北極と南極の表面に存在することは、人工衛星による観測ですでに知られていたようだ。

 ▼ところがそれ以外の場所でも、地下に大量の氷が埋まっている可能性が出てきた。東北大などの研究チームが、月の隕石(いんせき)を詳細に分析してわかった。月の表側に見える「プロセラルム盆地」から、約1万7千年前にアフリカ北西部に落下したものだ。水がなければ生成しない鉱物「モガナイト」が含まれていた。

 ▼月の地下は低温のため、氷の状態で存在していると考えられる。過酷な極地ではなく人類が比較的活動しやすい場所で氷が発見できれば、大変な朗報である。将来、居住した際の飲料水や水素燃料の原料として使えるからだ。

 ▼そもそも「水の惑星」と呼ばれる地球の水は、どこからもたらされたのか。遠い宇宙から飛来した小惑星が、運んできた、との説が有力らしい。ただ、まだ決定的ではない。もう一つの大きな謎は、水が地球にどんな影響を与えてきたか、である。

 ▼地表の大部分は海に覆われている。ところが地球物理学者の唐戸俊一郎さんによると、地球の内部に、海水よりはるかに大量の水が貯蔵されていることが、最近わかってきた。水は、生命を育んできただけではない。地震や火山活動にも大きく関わっているという(『地球はなぜ「水の惑星」なのか』講談社)。

 ▼〈たつぷりと真水を抱きてしづもれる昏(くら)き器を近江と言へり〉。歌人の故河野裕子さんの代表作の一つである。20代の終わり、東京で暮らしていたとき、少女時代を過ごした滋賀県の琵琶湖を詠んだものだ。地球もまた宇宙空間にぽっかり浮かんだ、「昏き器」なのだろう。