【産経抄】4月24日 - 産経ニュース

【産経抄】4月24日

 作家の故米原万里さんは少女時代、東欧チェコスロバキアの国際色豊かなソビエト学校に通っていた。林間学校で、子供たちがそれぞれ自国のおとぎ話を披露することになった。
 ▼働き者の婆(ばあ)さんが、川に洗濯に行っておむすびを食べようとすると、コロコロ転がって穴の中に入ってしまう…。「おむすびコロリン」の話をしているうち、おむすびが食べたくてたまらなくなる。とうとうその夜は、一睡もできなかった。「『おむすびコロリン』の災難」というエッセーに書いている。
 ▼タイムマシンがあれば、パックご飯を電子レンジとともに届けてあげたかった。昨年の国内生産量は約19万トンに達し、2年連続で過去最高を更新した。手間いらずで、少量ずつ食べられると、単身世帯や高齢者の間で人気が高まっている。かつては非常用のイメージが強かったが、最近はブランド米を使った高級品も目立つ。
 ▼その一方で、高級炊飯器の開発も進んでいる。舌の肥えた中国人観光客の「爆買い」の対象にもなってきた。ご飯の究極の味をめぐる競争は、激しくなるばかりである。
 ▼コメが日本に伝来したのは、二千数百年前といわれる。もっとも、誰もが白米のおにぎりを食べられるようになったのは、昭和30年代の高度経済成長以降である。日本人は「米食民族」というより、「米食悲願民族」だった。農学者、渡部忠世さんが指摘していた。
 ▼娘の頼みを聞いて、母親は2週間後の参観日に、おむすびを持ってきてくれた。米原さんは、「米なしに生きていけない自分は、どうしようもなく日本人なのだ」と自覚したという。ますます手軽に、よりおいしいご飯が食べられるようになった今、かえって「日本人の自覚」を持ちにくくなっている。