4月5日

産経抄

 野球とはそもそもどんなスポーツなのか。野球評論家の故豊田泰光さんが、現役時代の昭和36年に初めてハワイに渡った時のエピソードは、大いに考えさせられる。現地では、広島出身の日系人に世話になった。

 ▼豊田さんが野球選手と知ると、広島弁でポジションを聞いてきた。「どこ遊びよるん」。「遊び」が「プレー」の直訳だとわかり、これこそ野球の原点と思い至ったという。遊びなんだから、好きなポジションを選べばいい。投げるのも打つのも両方好きなら、投手と打者の「二刀流」である。

 ▼エンゼルスの大谷翔平選手(23)が、飛び込んだばかりの大リーグで大暴れの活躍を見せた。開幕戦の初打席でいきなりヒットを放ち、投手としては初登板で初勝利を挙げる。これだけでも驚きだが、本拠地での初打席では、なんと本塁打をかっ飛ばした。

 ▼大リーグではすでに、多くの日本人選手が実績を重ねてきた。なかでもイチロー選手は、安打記録を次々に塗り替えただけではない。それまで記録を保持してきた過去の名選手の記憶を蘇(よみがえ)らせた功績がある。とはいえ、にわか大リーグファンにはなじみの薄い名前も含まれていた。

 ▼大谷選手の登場であらためてクローズアップされているのは、「野球の神様」と呼ばれてきたベーブ・ルースである。二刀流の大先輩は、別の意味でも「遊び人」だった。100年前の1918年、投手として13勝、打者として11本塁打の記録を残した。翌年は9勝と29本塁打である。

 ▼当初二刀流に懐疑的だった人たちも、大谷選手の挑戦をまじめに受け取り始めたのではないか。何より分業化が進む現代野球が忘れかけていた、本来の「プレー」の復活に、米国のファンも喝采を送っているはずだ。