【産経抄】3月26日 - 産経ニュース

【産経抄】3月26日

 かつて、日本には縄文時代以前の旧石器時代は存在しないとされてきた。その定説を覆したのが、独学で考古学を学んだ故相沢忠洋(ただひろ)である。納豆の行商をしながら、旧石器時代の群馬県・岩宿遺跡を発見した。
 ▼東海学園女子短大名誉教授の尾関清子さんは、その名を冠した「相沢忠洋賞」を平成8年に受賞している。尾関さんもまた、縄文布の研究家として、独自の道のりを歩んできた。もともと手芸の講師として短大に採用された。
 ▼女学校を卒業後、生計を立てるために作っていた人形の出来栄えが、関係者の目に留まった。生活文化史を手がけるようになり、縄文時代のくしや土偶を調べていくうちに出合ったのが、日本最古の布とされる「編布(あんぎん)」である。
 ▼相沢は当初発見した石器を考古学者に持ち込んでも、誰も相手にしてくれなかったという。家政科が専門の尾関さんも、考古学の門外漢扱いされる経験を繰り返した。くやしさを研究のエネルギーに変え、全国各地の遺跡から出土した布を分析し、編布を再現してきた。
 ▼縄文人はどんな服を着ていたのか。食と住に比べて解明が進んでいない、大きな謎に挑み続けている。そんな尾関さんが、立命館大学で文学博士の学位を授与された。88歳での博士号取得は、国内最高齢である。米寿の博士の研究意欲は、まったく衰えていない。
 ▼この機会に小欄の先輩の快挙も紹介したい。岡芳輝(よしてる)さんは、安全保障問題を担当する産経新聞の論説委員だった。退職後、古希を目前にしてウィーン大学に単身留学を果たす。研究活動は13年4カ月にも及んだ。83歳で博士号を取得して、今年1月に帰国した。炊事、洗濯をこなしながら書き上げた博士論文のテーマは、「自衛隊の組織論的研究」である。