「共」の時代を目指して 

蔭山実のスポーツ茶論
横浜スタジアムは2018年シーズンに向け、球場改修についてプレス内覧会を行った。選手ベンチエリアが拡大され、ハイチェアーが設置された(菊本和人撮影)

 「日本には、パブリック(公)はあっても、コモン(共)がない」。最近、そういう指摘を耳にした。2020年東京五輪・パラリンピックを視野に、日本の自治体ではスポーツを地域活性に生かそうとする動きが目立つ。だが、簡単なことではないと、考えるところも増えたように思う。

 スポーツビジネスに携わる専門家が言うには、「公」の場といえる公園は多くあっても、「共」の場といえば、神社はあるが、あとは花見や花火の見物。ふだんから身の周りで人が集まる光景は、日本ではあまり見かけないのではないかというのだ。

 対照的に海外では興味深い事例が多い。その一つが米ニューヨークの「ブライアント・パーク」。365日、近くの競技場などで試合がなくても大勢の人でにぎわう名所になった。「空間の価値を上げる」。その発想から民間で公園の運営と管理を行った成果だ。

 公園で行われるイベントは通常の1週間分を1日で行うほど密度を濃くした。ネーミングライツも随所に浸透しており、売り上げもかなりの額に上る。

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 スポーツにおける地域への貢献という観点では、12年のロンドン五輪がよくいわれる。治安のよくなかったロンドン東部を五輪のメイン会場にし、再開発を行うことで、健全な「公共空間」を整備したといえる。

 実は、ニューヨークの事例も治安を改善するために始まったものだった。こうした地域の治安改善を目的に、スポーツなどを活用する事例はロンドン五輪で始まったものではない。

 米国では、米大リーグのパドレスの本拠地、カリフォルニア州サンディエゴもその一つ。住民投票で犯罪率の高い地区の周辺区画を変えるという動きに発展した。治安改善後は税収も倍以上に増えたという。

 さらに北のアーバインでは、石油会社の開発で街が様変わりし、民間主導でスポーツ活動を導入したことで犯罪発生率が激減した。米国では「安全なコミュニティー」は買うものだという意識すらあるそうだ。

 野球場の広大な駐車場の跡地を再開発したサンフランシスコの「ミッション・ロック」はプロスポーツの地元人気球団と地ビールの醸造所が連携し、人気のスポットとなっている。

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 日本では、プロ野球の横浜DeNAベイスターズの本拠地、横浜はそうしたスポーツによる新たな地域活性が進んでいる地域だろう。野球をきっかけに人が集まる。市民に開かれたボールパークを構築することで「公」だけだった球場を「共」にも変えている。

 近年はプロ野球観戦でも若い女性が増えているが、その要因にも女性が来て楽しめる「共」の世界があるからだろう。それを分析することで、プロ野球以外でも女性ファンを増やすことは不可能ではない。ラグビーのワールドカップ(W杯)はもう来年に迫ってきた。いまひとつ女性人気に難があるといわれるラグビーもこのあたりに改善の糸口はあるかもしれない。

 日本では、スポーツは国産ではなく輸入である。その歴史はたかだか100年程度しかない。地域活性、環境改善、人的交流、教育効果と、課題は山積だ。

 「スポーツは手段。目的にすると失敗する」とは専門家の揺るがぬ見方。課題解決に必要なのは、「コモン」に着目し、スポーツを使った「人の集まる空間」の創出である。海外の本場に見習うところは多い。