3月9日

産経抄

 「貿易戦争」なんて言葉を聞くと、日米貿易摩擦が激しかった1980年代を思い出す。日本の輸出が伸びて、米国の赤字が拡大していた。とりわけ目の敵にされたのが、自動車である。労働者がハンマーで、日本車をたたきつぶす映像が話題を呼んだ。

 ▼米国の圧力により、日本は輸出の自主規制を余儀なくされる。日米両国で当時、ベストセラーとなったのが、ソニー会長だった盛田昭夫氏と石原慎太郎氏の共著『「NO」と言える日本』である。「アメリカの恫喝(どうかつ)が続くなら、日本は半導体をソ連に輸出する」。石原氏の過激な主張が、物議を醸した。

 ▼「日本からは数百万台の自動車が来るのに、米国はほとんど売っていない」。トランプ米大統領は選挙戦で、時代錯誤の日本たたきを繰り返した。今度は主要な貿易相手国すべてに、「NO」を突きつけようとしている。鉄鋼などに高関税をかけて、輸入を制限すると表明した。どうやら11月の中間選挙をにらんで、支持者の歓心を買うことしか眼中にないようだ。

 ▼世界の様相は80年代と大きく異なっている。日本に代わって、中国が貿易大国として存在感を高めてきた。盛田氏は本のなかで、日米関係を「腐れ縁」とたとえた。グローバル化が進んだ現在では、世界中が経済の腐れ縁でつながっている。たとえ貿易戦争で目先の勝利を収めても、米国の衰退を早めるだけだろう。

 ▼石原氏が昨年、亀井静香氏と出した新著のタイトルは当初、『「NO」と言える日本ふたたび』だった。「否定的な表現ではだめだ」との亀井氏の意見が通り、『「YES」と言わせる日本』となった。

 ▼安倍晋三首相は各国首脳と協力して、是が非でもトランプ氏に、「YES」と言わせなければならない。