読書時間ゼロ分の大学生に訴えたい 2月28日

産経抄

 東大教授の福島智(さとし)さんは、ハードボイルド小説のファンを公言している。福島さんは、9歳で失明、18歳で聴力を失った。見えなくて聞こえない過酷な状況で生きるということは、毎日戦場にいるような感じだという。

 ▼それゆえ、「命ギリギリのところで生きる(ハードボイルド小説の)登場人物」に「親近感が湧くし、エネルギーをもらえるんです」。数年前、月刊誌『致知』に掲載された作家、北方謙三さんとの対談で、語っていた。

 ▼昨今の大学生の多くは、そんなエネルギーを必要としていないらしい。全国大学生協連合会の調査によると、学生の「本離れ」はますます進んでいる。昨年はとうとう、1日の読書時間ゼロと答えた大学生が、初めて5割を超えた。

 ▼情報収集は、スマートフォンで用が足りる。アルバイトや就活で忙しい。理由はいろいろあるだろう。ただ別の調査では、高校生の「不読率」も5割に近い。大学入学前に読書の習慣が身に付いていないと、ずっと本と縁のない生活が続いていくわけだ。

 ▼プロ野球西武の菊池雄星投手は、読書家として知られている。先月の日経新聞で、沢木耕太郎さんの『敗れざる者たち』に収録されている「クレイになれなかった男」について書いていた。ついに燃え尽きることのなかったボクサー、カシアス内藤を描いたノンフィクションである。

 ▼成績が伸び悩んでいた菊池投手は、この本に出合って、やれることを全てやっていない、自分の甘さに気づいた。改めて、「燃え尽きよう」と誓った。それが、昨年のパ・リーグ最多の16勝と最優秀防御率の好成績につながったというのだ。読書の効用は小さくないぞ、と訴え続けたい。果たして、聞き耳を立ててくれるかどうか。