遠回りの金メダルは味わい深い 2月20日

産経抄
スピードスケート女子500m ゴールしガッツポーズの小平奈緒=18日、江陵オーバル(撮影・松永渉平)

 江戸幕府がオランダに派遣した最初の留学生は、榎本釜次郎(後の武揚(たけあき))ら15人である。現地に到着すると、ちょんまげが珍しがられて、外出もままならない。まず洋服に着替え靴をはき、帽子をかぶることから始まった。

 ▼150年後、スケート大国のオランダで2年間の武者修行を経験した小平奈緒選手も、カルチャーショックに苦しんだ。オランダ語をなんとか習得したものの、乳製品中心の食事に体は悲鳴を上げた。もっとも、成果も大きかった。

 ▼元世界チャンピオンのコーチからは、「怒った猫」のように両肩を上げるよう指導を受けた。帰国後、一本歯のげたを使った独自のトレーニングなどを取り入れて完成させたのが、現在のフォームである。「蘭学」と格闘した先人たちに倣って、世界の先端技術の日本流アレンジに成功した。

 ▼平昌五輪のスピードスケート女子500メートルは、五輪新記録をマークした小平選手の圧勝だった。31歳での金メダルは、日本勢最年長の記録となる。小平選手は、自らの競技人生を「遠回り」と表現してきた。「回り道をして遠回りに見える道が、実はもっとも近道で味わい深い」。これは、大リーグのイチロー選手の名言である。

 ▼大学時代の恩師は、今も指導を続けている。所属先の病院は、競技生活のピンチの際に手を差し伸べ、支援してきた。バンクーバー、ソチ五輪で日本代表としてともに戦った親友が、栄養面や練習のサポートを担当している。

 ▼そのほか多くの人たちが、理想の滑りを追求する小平選手の長い道のりを支えてきた。昨日のコラムで、将棋の藤井聡太新六段の桁外れの「早熟」にエールを送った。本日は、遠回りしてつかんだ金メダルの「円熟」に敬意を表したい。