仏で賞賛、漫画家・谷口ジローさんの作品に日本の底力 2月3日

産経抄
漫画家、谷口ジローさん=2009年11月19日(三品貴志撮影)

 「小泉八雲の再来か」。こんなキャッチコピーにひかれて、フランス語コミックの日本語版『鬼火』を読んだ。フランス人2人組が妖怪を写すという中古カメラを手に、滞在先の新潟県内や青森県・恐山を歩き回るというストーリーだ。外国人の目に映じた日本の原風景、過去と現在が興味深い。

 ▼フランスといえば、日本に次ぐ世界第2位の漫画大国として知られる。そのフランスをはじめとする欧州で、日本国内でよりもむしろ高く評価されていたのが昨年2月に69歳で亡くなった漫画家、谷口ジローさんである。

 ▼48歳の意識を保ったまま突然、14歳の過去に戻ってしまった男性を描く『遥かな町へ』は、欧州の3大コミック大賞を受賞した。2010年にはフランスで映画化もされている。パリで開いたサイン会には、小学生から高齢者まで幅広い層の読者が訪れたという。

 ▼日本では昨年12月、谷口さんの未発表絶筆を収めた作品集『いざなうもの』が刊行された。その最後に、亡くなる3カ月ほど前に手帳に記した一文が掲載されている。「たったひとりでもいい 何度も 何度でも 本がボロボロになるまで読まれるマンガを描きたい」。

 ▼創作者の執念、魂がそのまま伝わってくるようで、胸を突かれる。谷口さんの新作がもう読めないことを、改めて残念に思うと同時に、日本の歴史や生活に根ざした芸術・文化の底力も感じた。ふだん、気にもとめずに味わう日常の出来事こそが、「クールジャパン」そのものなのではないか。

 ▼近年、日本を自賛するテレビ番組などが増えたと指摘され、それに眉をひそめる向きもある。確かにやり過ぎは恥ずかしいが、まだまだ日本には、自分たちでは気づきにくい良さや魅力がありそうである。