蒲田駅前の屋上観覧車に乗った 客は自分だけ 地元に愛されて生き延びる「無用の構造物」の味わい

ん!?

 「都内で唯一」と聞いて、乗りたくなった。屋上観覧車。デパートとかに、もれなく常備されていたような気がするが、絶滅危惧種になっていたとは。

 蒲田駅前の「東急プラザ蒲田」は7階建てのビル。屋上はがらんとしていた。風は冷たいし、雨も降りそうだし、寂しいのは仕方ないか。曇り空の下、小さな観覧車が無人のままゆっくりと回っている。

 高さは10メートルちょっと。ゴンドラは9つ。客は私だけ。子供向けの遊具を大人げなく占拠しちゃうような、ちょっとした後ろめたさとともに乗り込んだが、眺望は意外なほど本格的。1周3分、あっという間だった。

 係員が「天気に恵まれれば富士山も見えますよ」と教えてくれる。この施設も、数年前に廃止されそうになったが、惜しむ声が集まって存続したという。

 観覧車が気になり始めたきっかけは、20年近く前に読んだ辺見庸さんの文章だ。「進歩主義でないからいい」「無意味だからいい」という感じのことが書いてあって、胸に刺さった。

 せっかくなので蒲田を訪ねる前に調べたら『反逆する風景』という本だった。大手出版社のは絶版だったが、鉄筆文庫というレーベルで再刊されていたのでさっそく購入。

 〈開いた口がふさがらないくらい無用の構造物である。けれども世界はいま、みずからが有用としてこしらえた無数の構造物に裏切られ、窒息し、押し潰されていやしないか〉

 都心の一角で、地元の人に愛されて生き延びている屋上観覧車の姿を重ねつつ読むと、じつに味わい深いのだった。

 帰ろうとしたら、幼稚園ぐらいの子供を連れた女性が屋上にやってきた。慣れた様子で切符を買って、楽しそうに観覧車に乗り込んだ。絶滅はまだまだ先だろう。(篠原知存)