【津田俊樹のスポーツ茶論】サッカーW杯、内容でなく勝利がすべてだ - 産経ニュース

【津田俊樹のスポーツ茶論】サッカーW杯、内容でなく勝利がすべてだ

サッカーW杯ロシア大会の抽選会で、日本がH組に入ったことを示すボード。初戦でコロンビアと対戦する=12月1日、モスクワ(共同)
 東京・丸の内のオフィス街に、昼夜を問わずビジネスパーソンでにぎわうそば屋がある。近くの商社や外資系の会社に勤めているのか、外国人の常連客が上手にそばをつまむ。伝統の味を通じての異文化交流は見ているだけでも楽しい。
 店の奥の壁に飾られた風景画の左下に小さな肖像が額装されている。「諸橋晋六さんの遺影です。ちょくちょく来ていただきました。気軽にお一人でね」と店長がしのぶ。
 三菱商事社長、会長を歴任した諸橋さんは2002年サッカー・ワールドカップ(W杯)開催準備委員会副会長として世界を駆け巡り、招致活動の陣頭指揮を執る。
 大会終了後、「W杯をテーマに講演することになったので、舞台裏の話を聞かせてくれないか」と声をかけられた。洗練された立ち居振る舞い、ユーモアあふれる会話、存在感の大きさに圧倒されたのを記憶している。13年6月に90歳で旅立った。
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 今夏、W杯ロシア大会が開かれる。改めて、諸橋さんのお別れ会で配られた「不将不逆」と銘打たれた小冊子を味読してみた。
 「終了のホイッスルが鳴る瞬間まで闘い抜く、あの魂のようなものが好きで、サッカーとは縁を切れない」
 少年時代から心血を注ぎ続けた熱い思いがヒシヒシと伝わってくる。「『おまえ、わかるか。サッカーは文化なんだ』と、おっしゃっていたことが忘れられません」
 諸橋さんのもとで招致活動に携わった関係者は目を細めながら振り返る。
 サッカーは国のありよう、歴史、伝統、民族性が礎となる。日本のW杯初出場は1998年フランス大会、まだ20年と歴史が浅い。勝利への期待と不安が交錯するなか、今度こそは、と希望を紡ぎたい。代表チームを率いるハリルホジッチ監督が何を目指しているのか、かじ取りが懸念される。試行錯誤をしている段階ではない。
 五輪のメダル至上主義にはくみしないが、W杯は、なりふり構わず勝ちに固執してほしい。内容ではなく結果がすべてである。
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 2002年W杯決勝トーナメントの日本-トルコ戦は大雨の宮城スタジアムで行われた。スコアは0-1の惜敗とはいえ、内容は完敗だった。ホームの殺気がないのをこれ幸いと、アウェーのトルコは伸び伸びとプレーしていた。
 「日本は豊かだから、なりふり構わず勝ちにいく必要などないんじゃないの。選手もサポーターも背負っているものが違うのさ」
 アルゼンチンから取材に訪れていた記者に、容赦なく突き放されたのを覚えている。
 手元に当時の拙コラムがある。
 「日本代表の敗退が決まると、帰りのバスは肩を落としたサポーターで満員となった。車内は不気味なほど静まり返っていた。そのなかで、一人の若い男性が連れの女性につぶやいた言葉が耳に残っている。『日本人は優しいから、こんな結果でもよくやったと総括しちゃう。だから、いつになっても世界のトップレベルに追いつけないんだよ。もっと、怒らなくちゃ』。疲労困憊(こんぱい)の体と冷えた心が、この言葉に救われた」
 ロシア大会で日本代表はどういう戦いをするのか。サポーターはどう見守り、メディアは何を伝えるのか。再び、試されるときがやってくる。