全ての課題克服に通じる「自分で考えるから勝てる」

蔭山実のスポーツ茶論
延長十回、明治を破りナインとともに喜ぶ慶応の岩見雅紀(右から3人目)=神宮球場(佐藤雄彦撮影)

 「話題になる前から注目して見てきたと思うと、自分も少し誇らしい気分になってきますね」

 東京六大学野球のファンからこんな言葉を聞いた。話題の主はというと、この秋季リーグ戦で本塁打を量産し、通算最多記録にも迫る驚異の打撃を見せた慶大の岩見雅紀選手である。

 その豪打ぶりはネット裏では早くから「規格外」といわれてきた。バックスクリーンを軽々と越すだけではない。左翼席上段に高々とほとんど片手でボールを運ぶかと思えば、右翼席に狙い打ちでほうり込む。

 右投手であろうと左投手であろうと関係なし。上手投げも下手投げも打つ。球種、コース、タイミングもほとんど選ばず、他の5大学の多彩な先発投手陣10人で本塁打を打たれなかったのは1人だけだった。

 通算21本塁打は、プロ野球巨人の高橋由伸監督の持つ最多の23本塁打には及ばないものの、阪神の岡田彰布元監督を抜いて歴代3位。上級生になってからレギュラーの座をつかみ、その2年間で19本塁打とは驚く。この先もこんな打者は現れないのではないか。

                 □  □

 野球界は21世紀に入り、スター選手の本塁打の華々しさよりも、機動力やチーム力による勝利が注目される時代へと移った。その節目を象徴したのが2001年に米大リーグでデビューしたイチロー選手だろう。

 転がして脚で出塁を重ねるスピード感のある野球をファンも思い出したかのようだった。それまでの本塁打合戦が話題だったのとは対照的だが、本塁打の裏に潜む薬物の問題が表面化してきたことも野球を見る目を変えたのかもしれない。

 しかし、いま、野球界の話題はまた本塁打に戻りつつある。清宮幸太郎選手(早稲田実業高)や中村奨成選手(広陵高)の活躍は目覚ましかった。アメリカに目を戻すと、MLBのアストロズとドジャースのワールドシリーズは第7戦までもつれたとはいえ、両軍合わせてシリーズ新記録の22本塁打が乱れ飛び、新たなドラマも生まれた。

 ただ、本塁打が増えるとボールやバットが問題になり、あまり気分のよい話ばかりではないのは残念だ。

                 □  □

 岩見選手を見ていると、「弘法、筆を選ばず」ではないが、道具などを議論するだけではすまない気がしてくる。

 「練習環境が自分に合っていたのは大きい。“個々に考えて練習する”。自分なりに課題を持ちながら練習してきた。人間として成長するために必要なこともたくさん教わった。すごく大きな財産になった」

 岩見選手はインターネットスポーツメディア「スポーツブル」でこう話していた。慶応義塾塾長を務めた小泉信三の「練習は不可能を可能にす」という有名な言葉があるが、それを体現するかのように、着実に進化を続けてきたのではないだろうか。

 そこで忘れてはいけないのは、この言葉はスポーツだけではなく、生きる全ての課題を克服する姿勢に通じることだ。体力や技術の向上にとどまらず、「道徳的能力は練習によって高められ、その発達には限界はない」とも教えている。

 21本塁打は才能や力だけで残した記録ではない。人としての成長がそこに表れていたのではないか。来年の平昌から20年の東京へと向かういま、結果を残すためにアスリートは何をすべきか。そのお手本が岩見選手の戦い続けた4年間に集約されているように思う。