誰が日本の銀行を殺すのか 論説委員・井伊重之

日曜に書く
みずほ銀行の本店=東京都千代田区

 みずほフィナンシャルグループが支店網の2割削減を打ち出すなど、大手銀行のリストラが本格化してきた。インターネットの普及と日銀のマイナス金利などで銀行の収益基盤が急速に毀損(きそん)しているからだ。薄利多売の支店網を全国の駅前一等地に構える銀行のビジネスモデルは立ちゆかなくなっている。

 とくに日本の場合、以前からオーバーバンキング(銀行過剰)という事業構造が指摘されてきた。大手銀行や地方銀行、信用金庫や信用組合、それにゆうちょ銀行も加わり、世界でも例をみないほど多くの支店がひしめき合う構図だ。

 ◆薄利多売の過剰店舗

 しかし、その銀行の窓口から猛烈な勢いで客足が遠のいている。メガバンクの都内支店では10年前に比べ来店客が4割近く減少した。インターネット専業銀行は「振込手数料無料」を売り物にしている。ネットやATMを使った口座振替や送金などが広がり、窓口を訪れる必要がなくなっている。

 日銀は先月、邦銀の収益低下の背景に過当競争があるとのリポートをまとめた。都心・地方とも銀行店舗は過剰で、手数料収入が少ないために1店あたりの収益は、欧米の商業銀行より低いと厳しく分析している。

 欧米の銀行口座には一定の口座維持手数料がかかるのが一般的だが、日本ではほとんど徴収されていない。日本の中小金融機関の手数料などの非金利収入は米国の4割、欧州に比べると2割に満たない低水準だ。

 口座手数料を得るには、独自のサービスを提供しなければ利用者は離れる。だが、邦銀の定期預金や住宅ローンの金利はほぼ横並びだ。他行とサービスで差をつけられない以上、今以上に手数料収入を増やすのは難しい。かつての「護送船団行政」の下で培われた横並び体質が今も影を落とす。

 こうした中でマイナス金利が導入され、銀行が本業で稼ぐ業務純益は減少している。一方で支店網のコスト負担は重く、大手の経費率は6割を超えた。高コスト体質の是正に向け、人員や店舗の削減に手をつけざるを得なくなっている。

 それでもメガバンクにはまだ体力があり、構造改革に取り組む時間は残されている。より深刻なのはすでに人口減少の波に襲われている地方銀行だ。

 ◆再編のアリバイづくり

 大手地銀では県境を越えた再編も生まれているが、同じ県内同士の経営統合には、地域独占の排除を掲げる公正取引委員会が待ったをかけている。県内の融資シェアで統合を審査するなど時代遅れも甚だしいが、独占禁止法の壁は高い。地元の地主を対象にしたアパートローン拡大にも当局の監視の目が光る。

 地銀同士が持ち株会社を設立し、その傘下に入る統合ではどこまで経営改革に踏み込めるかは不透明だ。なかには統合後も互いの営業地域には干渉しない「相互不可侵条約」のような統合もある。これでは再編のアリバイづくりにすぎない。

 これからの時代に地銀がしぶとく生き残るためには、大胆な経営改革が欠かせない。例えば競合が激しく採算が低い法人営業からは撤退し、地域金融機関としてリテール(小口金融)をもっと充実させるなどの構造改革を考えるべきだ。そこでは店舗や人員の削減も必要だが、大手と同じ薄利多売型ビジネスモデルからの転換が急務だ。

 ◆地銀が生き残るためには

 今後の法人向け融資などの審査業務は、AI(人工知能)などに置き換わる可能性が高い。それならば個人向けの資産運用ビジネスや富裕層シニアの見守りサービスなど、顧客と向かい合うリテール業務に注力した方が一定の収益が見込める。資産相続の一環として、中小・零細企業の事業承継業務なども有力な地域ビジネスといえる。

 買い物・病院への同行や戸別訪問などの見守りサービスは、地域の高齢者支援にもつながる。地元金融機関としての信用力やブランドも生かせる。大手地銀が経営規模の拡大に走るなら、経営規模を縮小しながら独自の生き残り策を模索する地銀がもっと登場してほしい。

 「誰がアパレルを殺すのか」は、大手アパレルブランドが消費者の支持を失い、窮地に陥った原因を多角的な取材で浮き彫りにした本だ。過去の成功や社内のコンセンサスに捕らわれ、思い切った経営改革に踏み出せなかったことが現在の凋落(ちょうらく)につながったという。これはアパレルや銀行だけでなく、日本の産業界そのものが抱える重い宿痾(しゅくあ)でもある。(いい しげゆき)