批判は理解できるが、あえて「大学駅伝ファースト」

津田俊樹のスポーツ茶論

 1回、2回、3回と福岡ソフトバンクホークスの工藤公康監督が宙に舞う。4日、プロ野球日本シリーズ第6戦にサヨナラ勝ちして2年ぶり8度目の日本一に輝いた。

 歓喜の輪に背を向けて、センターからのカメラにポーズをとる選手に違和感を覚えたが、もはや、お約束の流れ。そんなことで渋面を作るのは少数派らしい。

 話は伊勢路に飛ぶ。翌5日、全日本大学駅伝が行われ、神奈川大が20年ぶり3度目の優勝を成し遂げた。出雲駅伝の覇者・東海大、2連覇を目指した青山学院大を退けての快挙だった。

 大後(だいご)栄治監督の胴上げが行われると思われたが、ヒーローの鈴木健吾主将は舞ったものの、監督は拒み続けた。

 「(近くに)東海大さんがいたので、スポーツマンシップに反するのではと思って」

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 大学駅伝の指導者は多芸多才でユニークである。昨シーズン、出雲、全日本、箱根の3冠に輝いた青学大の原晋監督は「陸王大作戦」「青山祭大作戦」などと言葉巧みなキャッチフレーズで注目を集める。

 マスコミを意識した手法に距離を置く向きがある。東海大の両角速(もろずみ・はやし)監督は出雲を制しても「遊びじゃないから」と闘争心をあらわにした。

 練習方法はもちろん、選手の育成、人心掌握術などチームそれぞれである。個性的で誇り高く、一言一句に発信力がある。

 背負っているものが違うのかもしれない。大学駅伝の沿道に人垣ができ、出場校の数えきれないほどの幟(のぼり)がはためくのは当たり前となった。

 予選会を突破した東京都内の大学のキャンパスには「箱根駅伝出場」のボードが掲げられ、一般学生の応援を喚起している。

 少子化の波に翻弄される私立大学経営陣にとって、自らをアピールする絶好の機会である。監督、スタッフ、選手へのプレッシャーは想像に難くない。

 弊害として、卒業後、心身ともに抜け殻となり、志半ばで第一線から退き、燃え尽きてしまうケースがある。

 「長い時間をかけて大事に育てる意識を忘れないでほしい」

 日大時代に箱根路を走り、男子マラソンで五輪3大会出場(1968年メキシコ、72年ミュンヘン、76年モントリオール)の宇佐美彰朗・東海大名誉教授は警鐘を鳴らす。

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 今春、日本陸上競技連盟の瀬古利彦マラソン戦略プロジェクトリーダーに2020年東京五輪期待の星を聞くと「鈴木健吾でしょうね。スピードもあるし、暑さにも強い。楽しみだな」と即答した。

 期待通りの快走で一歩ずつステップを踏んでいる。来年1月の箱根から、2月の東京マラソンで初めて42・195キロにチャレンジすると聞く。

 マラソン界は男女とも世界的レベルから大差をつけられているだけに、鈴木への期待が膨らむ。

 東京五輪という大きな目標に向かって、「駅伝第一主義」への批判は理解できる。それでも、あえて、箱根をとる。

 母校の襷(たすき)をつなぐための走りは、OB・OGに限らず、胸を打たれる。沿道で「風」に接すれば、なおさらである。

 さまざまな思惑が絡み合うからこそ、監督も舌戦を繰り広げる。いずれの大学が胴上げをするのか、ワクワク感を抑えきれない。