破られた賞状…時代が違うだけなのか 論説副委員長・別府育郎

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 高校ハンドボール部の男性監督に部員への暴力行為などがあったとして日本ハンドボール協会は3カ月の指導停止処分とした。監督の不服申し立てを受けた日本スポーツ仲裁機構は協会の調査手続きに瑕疵(かし)があったとして、処分取り消しの「仲裁判断」を出した(12日付社会面)。

 仲裁判断は監督が県新人戦2位の賞状を選手の面前で破り捨てた行動に言及し、「優勝しか価値がないかのような勝利絶対主義の指導は即刻改めるべき」だとも付言していた。

 男性監督が具体的にどのような指導を行っていたのか知らない。ただ、選手の前で賞状を破った監督なら1人知っている。

 昭和61年、明治大学とラグビー大学日本一を分け合った慶応大学は抽選で日本選手権に進み社会人王者のトヨタ自工(現トヨタ自動車)と戦った。

 試合前、慶応の上田昭夫監督は国立競技場のロッカールームで照明を落とし、ライターの火に選手の意識を集中させ、「俺たちはこれだけのためにやってきたのか」と大学選手権の賞状を真っ二つに破り、「このエンブレムに今日の勝利を誓え」とブレザーの胸ポケットを引きちぎって机にたたきつけた。

 選手は涙を流してグラウンドに散り、18-13で日本一に輝いた。上田さんはその後、トヨタ自工を退社した。

 後日、本人に聞いた。「賞状はコピーですよ。本物を破れるわけがないじゃないですか。怒られてしまいます。胸のポケットは、前夜に糸を抜いてマジックテープで貼り付けたんです。ベリッと音が出るように」

 当時、上田さんの人となりをうかがえるエピソードとして書いた。否定的な思いも反応も、全くなかった。破ったのがコピーだったという上田さんのちゃめっ気がそうさせたのか。時代が違うだけなのか。

 「勝利絶対主義」が非難の対象であるなら、双方の行為に差異はない。だが、勝利を目指さない対戦競技はあり得ない。

 あなたなら、どう答えるだろう。上田さんにも聞いてみたいが、すでに一昨年、62歳の若さで亡くなっている。