北朝鮮危機に対し全ての手を打て 「チェンバレンの宥和政策」繰り返すな

野口健の直球&曲球

 高校時代を英国で過ごしたからか「チェンバレン(元英首相)の宥和(ゆうわ)政策」がよく話題にのぼった。

 1938年のミュンヘン会談で、ナチス・ドイツのヒトラーの要求を全面的に受け、チェコスロバキア(当時)のズデーテン地方のドイツへの割譲に合意した。この決断により、ヨーロッパ全土で大戦を避け、平和を維持できたと英国民はチェンバレンを熱狂的に支持した。チェンバレンも周辺国も、これだけ譲歩したのだからヒトラーがこれ以上、領土を要求することはないだろうと考えた。

 しかし、この姿勢はヒトラーの野望を増長させただけでなく軍事力強化に時間的猶予を与えてしまった。半年後、ドイツはチェコスロバキア全土を実質的に掌握、その後、ポーランドに侵攻し同盟国である英国・フランスはドイツに宣戦した。

 戦後、チャーチル(チェンバレンの次の首相)は「先の大戦は防ぐことができた。早い段階でヒトラーをたたき潰していればその後のホロコーストもなかっただろう」と宥和政策の失敗を述べている。

 確かに外交努力は大切だ。安倍晋三首相は歴代首相の中で最も各国首脳との会談を積み重ねてきた。米韓と連携し北朝鮮へのさらなる制裁強化も実現させた。最大限の外交努力を行ってきただろう。しかし、制裁を強化しても日本の上空にミサイルが飛ばされ続けているのは事実だ。

 北朝鮮からの核ミサイルが日本に落ちれば数十万人が即死すると指摘されている。話し合いで解決し、武力での解決を回避することは理想である。

 しかし、暴走しているあのリーダーに「平和」を理解させ、一緒に歩んでいけるとは到底思えない。国家のリーダーに最も必要な国民への愛もまるで感じられない。「国民の生命財産を守る」との責任感があれば国際的に孤立する道は選ばないだろう。

 北朝鮮危機に対しやれる全てのことをやらなければならない。対話という外交、制裁という圧力、そして、防衛力の強化。さらには、先制的自衛権についての問題も含め、国民的議論が必要だ。「あの時に手を打っておけば、こんなことにはならなかった」を繰り返さないためにも。

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【プロフィル】野口健

 のぐち・けん アルピニスト。1973年、米ボストン生まれ。亜細亜大卒。25歳で7大陸最高峰最年少登頂の世界記録を達成(当時)。エベレスト・富士山の清掃登山、地球温暖化問題、戦没者遺骨収集など、幅広いジャンルで活躍。新刊は『震災が起きた後で死なないために』(PHP新書)。