人を殴ってはいけないが「それが必要な時もある」 論説副委員長・別府育郎

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 人を殴ってはいけない。そんなことは知っている。だが殴ったことを報じるなら、どのような思いを抱えて殴ったのかも知るべきだろう。

 ジャズトランペッターの日野皓正さんが8月、自身が指導する東京都世田谷区の中学生バンドのコンサート中、ソロパートの演奏をいつまでもやめようとしないドラムの男子生徒の顔面を平手でたたいた。

 週刊文春が映像を入手して顛末(てんまつ)を掲載し、本紙を含む各紙も後追いした。

 後に日野さんは「行き過ぎたところは謝る」とした上で、「それ(ビンタ)が必要な時もある」と述べた。これだけでは真意が伝わらない。

 日野さんは10年以上、このバンドを指導している。平成27年9月、僚紙夕刊フジの取材に、その指導について語っていた。

 「ある時、練習に行ったらトイレのスリッパが全部、反対に向いていたの。『てめえらバカヤロ、履けねえだろ』って怒鳴ったら、翌週にはきれいに直っていた。『お前ら、すごい。これがジャズだぞ』って、つい涙がこぼれちゃった」

 「俺、譜面を破いて帰ったこともある。あとで譜面をテープで止めてあって、子供たちが『先生、あの曲やりたいんですけど』と言いにきた。見違えるほど音が変わっていましたよ。こちらも命を張って教えないと。子供たちの感性は大人の100倍あるから、やる気になれば何でもできるんです」

 そういう人なのだった。

 たたいた男子生徒については「ドラムの才能がすごい。俺とは父と息子のような関係で、ほかの生徒には絶対に手を上げない」とも話している。

 文部科学省は運動部活動の指導指針の中で、信頼関係があれば体罰も許されるとの意識は認められないと断じている。

 だが、指弾を覚悟で殴るべき場面はあり得る。他者の音を聞かないジャズマンの存在が、日野さんにとっての「その場面」だったのだろう。日野さんの指導によるバンドも、才能豊かな男子生徒のドラムも、続けてほしいと願っている。