若者に希望与えるプロ選手たち

黒沢潤のスポーツ茶論

 1980~90年代、中日や巨人で名捕手として活躍した中尾孝義氏(61)と先日、電話で話をする機会があった。現役時代、珍しく守備中にも丸いヘルメットをかぶって“一休さん”の異名をとり、強肩・強打・脚力でファンを魅了した同氏は今も、野太い声を出して元気そのものだった。

 昨年まで阪神のスカウトを務め、今春、岩手・専大北上高校野球部の監督に就任。専大を卒業した縁で就任要請があったが、最後の一押しは86歳で逝去した父・岩男さんの言葉だった。

 「プロが終わったら、いつかアマチュアに、指導者となって恩返ししろ」

 岩手大会では初陣で敗れる苦杯をなめたが、父の遺言を胸に捲土重来(けんどちょうらい)を誓う。

 「高校生は真っ白だ。僕の言うことを受け入れる目の色はすごく、とてもかわいい。まずは甲子園に出場し、旅立っていった生徒が大学や社会人、プロで活躍できるようにするのが夢だ」。彼の言葉の端々からは、野球人として名声を得た後もなお、若者のためにすべてを注ぎ込もうという熱い思いが伝わってくる。

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 巨人の元エース、桑田真澄氏は東大野球部で指導するだけでなく、中学や高校の野球部に残る“悪(あ)しき精神論”や体罰の撲滅を目指す活動にまで踏み込む。

 練習中に水を飲むのは良くない、などと信じられていたPL学園時代、渇きを癒やすため部内で隠れて便器の水を飲んだという話を公にしている桑田氏は、水を飲むのを禁止され手洗い場の蛇口が針金で縛られていた事情を説明。その上で、今の時代、十分な水分補給は「常識」だとし、科学に基づく若者指導の重要性を説いている。

 桑田氏は先輩らによる後輩への体罰根絶にも力を注ぐ。少年時代の強烈な体験があるからで、体罰に「愛は感じない」と訴える。

 米大リーグ・ヤンキースに所属した松井秀喜氏の盟友、デレク・ジーター氏の引退後の活動にも光をあてていいだろう。彼は約2年前、全米の子供たちのいじめを防ぐアプリ「STOPit」に投資した。匿名で学校にいじめを報告できるアプリで、日本でも本格導入の動きが始まっている。

 ジーター氏は「全ての子供が勉学と生活を充実させられるよう明確な道筋を示し、どんな形でもいじめは許さないとのメッセージを送りたい」と力説する。

 彼の新人時代、「どうしたらこんな人間ができるのかと思った。教育というより、どういう人間か知りたくて対話した」とヤンキースのトーリ前監督に言わしめた人格者ジーター氏。その言動が若者たちを勇気付けているのは間違いない。

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 欧州サッカー・バルセロナのメッシ選手が昨年、イスラム原理主義勢力タリバンが跋扈(ばっこ)するアフガニスタンに住むムルタザ・アフマディ君(6)に、ユニホームを贈り届けたという話を最近知った。メッシと同様に貧困家庭で育ち、無類のファンでもあるムルタザ君が、粗末なポリ袋で作った“メッシのユニホーム”を着ている写真をネットで見て心動かされたためで、中東カタールでの遠征試合にも彼を特別招待した。

 アフガンは今もなお、過激派による凄惨(せいさん)なテロに見舞われ、人心の荒廃が進む。メッシの行為は、ムルタザ君を含むアフガンの若者たちに希望を与えただけでなく、命の危険を感ずることなくスポーツができる平和が一刻も早く到来してほしいとの思いを一層、強くさせたはずだ。